目次
趣 旨
今回は、脳の中でも背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex:DLPFC)について部位と機能、何かしらの疾患や外傷などによって機能低下を示すとどのようになるか、について解説を行います。
記事作成者情報
この記事は、リハビリを専門にしている作業療法士が臨床経験と報告されている内容を加味して、解説しています。
この記事読んだらどうなるの?
そのため、脳の構造を知りたいまたは、リハビリなどの職種に従事する人が知識として蓄えたいさらには、脳卒中(脳出血や脳梗塞など)を患った患者様やご家族様に対して、少しでも理解して関わりやトレーニングなどに生かして頂けれる内容に努めて解説をさせて頂きます。
では、早速解説に移ります。
背外側前頭前野の部位
ここは、下記の図に示す位置になります。

その周囲には他の前頭野も隣接しています。
後に解説をしますが、この部位は脳出血が多いとされている視床との関係性が報告されています。
では実際に、背外側前頭前野の機能って一体どんな機能を担っているのかを解説をします。
背外側前頭前野の機能
この部位の機能は、主に遂行機能という機能があると報告されています。(Grafman J,Livan I:importance of deficits in executive dysfunctions.Lancet 354:1921-1923,1999.)
遂行機能とは?新しい情報から、自ら計画をたて、さらにそこに遠隔記憶(既に脳に蓄積されている記憶)を呼び起こし、新たな事柄や情報に対して効率よく適切な行動や、速やかに行動すると言った機能のことを示しています。
要するに、いま目の前の状況や情景などの新しい情報と、どのような行動をするべきか、過去の体験(記憶、認知など)から最良の行動を判断するといったような内容になります。
これらのことから、生活では判断し行動することが必要不可欠であって、この遂行機能は欠かせない機能になることが容易に想像できます。
なお、この機能を起動させるには注意、記憶、認知、感情などあらゆる高次脳機能を集結さる必要があります。
そしてこれらを、状況などに応じて必要な機能を選択的に用いる能力が必要になってきます。
仮にも、記憶機能が低下していると記憶の想起時間や内容の誤想起(誤った内容を思い出す)などの症状が出現します。
そのため、環境に応じて適切な行動をとることができない状態になるまたは、時間がかかるなど実際の行動に現れてきます。
これらのことから、遂行機能を構成している他の中核機能(記憶、注意、認知、感情など)が非常に重要になってきます。
そして、この他にも後に解説しますがこの背外側前頭前野の一部の経路が損傷するとワーキングメモリー低下や注意転導性亢進などが出現することが報告されています。
これらから、背外側前頭前野はワーキングメモリーや注意機能についても関係が深いことがわかります。
ここからは脳卒中の中でも多いとされている視床出血や梗塞と絡めて、背外側前頭前野と視床との神経回路について紹介をします。
背外側前頭前野と視床の神経回路
それが下記の図になります。

背外側前頭前野→尾状核→淡蒼球→視床(腹前核、背内側核)→背外側前頭前野へ戻る神経経路です。
また、そのほかにも前頭葉の各部位は前頭葉と言われる皮質部分から皮質下と言われる基底核などとの神経経路を持っていることが報告されています。
イメージでお伝えすると、このように様々な部位へ連携をしています。

背外側前頭前野と視床との関連性
脳では、紹介したように様々な神経が一方向や相互方向に情報の伝達を行います。
そのことによって、記憶の詳細さや、感情の程度など、感じた方や捉え方などに強弱をつけて自らのものにしていきます。
また、大脳皮質と言われる部分と、神経経路の中で、大脳皮質-皮質下神経経路があります。
今回の背外側前頭前野の場合、前頭葉-皮質下神経経路と言うようになります(下記の図参照)。

要するに、脳の表面と深部部分を繋ぎ合わせる(白質と灰白質を繋ぐ)ような神経回路のことを言います。
その中でも、今回は脳卒中に対して焦点を当てて解説を進めます。
通常直接的に、背外側前頭前野を損傷するような交通事故、転落、衝突などの外傷で背外側前頭前野を損傷する場合があります。
しかし、大脳基底核と言われる皮質下の神経変性疾患でもあるパーキンソン病やハンチントン舞踏病などでも遂行機能障害が出現すると言われています。
これらに加えて、今回焦点をあてている脳卒中でも遂行機能障害が出現することが知られています。
では、このような症状がなぜ起こるのかについて解説を行います。
視床出血、視床梗塞と遂行機能障害
脳卒中による遂行機能障害では、
①前頭葉付近まで血腫(出血した血液の塊)や梗塞範囲(血管が詰まり血液が流れなくなった範囲)が広がっている場合
②前述した視床や大脳基底核部分での脳出血や脳梗塞
この①、②の両方で遂行機能が障害されることが報告されています。
・大谷ら『段階的な目標設定の共有が視床出血後の依存的行動を変容させた一症例』
・長谷川ら『皮質下梗塞における遂行機能と前頭前野背外側の脳血流』
この原因として考えられているのが、先に説明した神経経路が関係しています。
先の説明を例に解説すると、
①は、背外側前頭前野→尾状核→淡蒼球→視床(腹前核、背内側核)→背外側前頭前野へ戻る神経経路で、遂行機能を担う中核である背外側前頭前野そのものが障害されて遂行機能障害が場合。

②は、背外側前頭前野→尾状核→淡蒼球→視床(腹前核、背内側核)→背外側前頭前野へ戻る神経経路で、尾状核や淡蒼球、視床と言われる中継地点が障害された結果、背外側前頭前野に対して適切な刺激や情報が送られず遂行機能障害が現れます。

視床が損傷されて遂行機能障害が出現したケースは数多く報告されています。
このように、①のように中核の部位、②のように中核部位と連携している中継部位が損傷される2種類において脳では様々な障害が現れます。
これらの裏付ける論文として、邦文では東京医科大学の長谷川らの報告(2005年)があります。その中でも、紹介されている文献として英語圏ではReedら(2004年)やCummings JL(1993年)、Kwan LTら(1999年)の報告もあります。
この中でも、長谷川らの報告では皮質下いわゆる基底核と言われる部位やその途中の神経経路が損傷すると脳血流量が著しく健常な状態と比較すると低下していることを報告しています。
これらより、視床出血や視床梗塞と言われる部位であっても、中継点が損傷することによってその中核部位の機能が損傷し症状として現れる可能性が十分にあることを証明しています。
まとめ
今回は視床出血や視床梗塞における高次脳機能障害の中でも、背外側前頭前野の機能に注目して遂行機能障害について解説を行いました。
最後まで読んで頂きありがとうございました。