視床出血や視床梗塞でなぜ、運動麻痺や高次脳機能障害が出現するの?

視床出血や梗塞でなぜ、運動麻痺や高次脳機能障害が出現するの?

視床の役割について私も以前は・・・感覚の中枢とだけ認識していました。あなたも、 視床は感覚の中枢とだけの知識で理解していませんか?
視床=感覚の中枢”と言われるような広義な知識を理解した程度だと、臨床で視床出血や視床梗塞などを発症した患者様に会うと、それ以外の病態整理(運動麻痺や高次脳機能障害)などを行うことができません。
またリハビリテーションでは、脳の可塑性を引き出すことが必須になってきます。
その観点からも、脳の構造やその機能についてある程度理解しておく必要があります。
そこで今回の記事では・・・視床出血や梗塞で感覚障害以外に、 なぜ高次脳機能障害や運動麻痺が出現するの?
これらの問題を解決するには、この2点の要点を知っておく必要があります。
視床は核が集まり、各々の核が神経経路が異なり役割が違う。 ②出血や梗塞範囲によって、他の神経経路を損傷し多様な後遺症が出現する。
この記事を読み終えると、これら2点について理解することができます。
そのため、視床における高次脳機能障害や運動麻痺が出現する理由について理解することができます。
この記事は、脳卒中や脊髄損傷などのリハビリテーションを専門とする作業療法士の村中が解説しています。
では、早速解説していきます。

①視床は核の集合体。核には異なる役割があった!

視床の構造を、理解しているでしょうか?
多くの教科書などでは、下記の図のように視床全体を表して解説している場合が多くあります。
・視床の図:赤色が視床緑色が被殻
被殻視床画像半球被殻視床
血管と被殻視床

図引用:

Creative Commons LicenseBodyParts3D, © ライフサイエンス統合データベースセンター licensed under CC表示 継承2.1 日本
上記の図で示す赤色部分が視床の全体像になります。緑色部位は隣接する被殻と言われる部位です。
今回解説するのは、この視床の詳細についてです。
これを知ることできっとあなたも視床出血や梗塞でなぜ感覚機能以外の障害が出現するのかをしることができます。ただし・・・
冒頭でも述べたように視床全体を理解する程度では、あくまで視床の全体を大雑把に理解しているだけで、視床の詳細を十分に理解できていません。

そこで、まずこれを理解して下さい。 ・視床は核が集まり、各々の核から大脳皮質に繋がる。


視床は、ある一つの物体(核)が複数個合わさったように捉えることが大切です。
下記図のように脳から視床と言われる部分だけを取り出して構造的な理解を深めましょう。
脳から視床を取り出すと下記の右に示すように卵円形になっています。

さらに、視床は役割別に区分けすることができます。
その区分けを行なったのが下記の図で示すようになります。
視床区分解説イラスト
この仕切りで区切られている一つ一つこそが、視床の機能を理解する上で重要な視床の核と言われる部位になります。
ここからは、この区分けされた視床の核別に一つ一つ役割を解説します。

視床神経核の各部位名称

先に区分けした図を拡大し、それぞれに名称を示すと下記の図のようになります。

それぞれには略名があり、下記のように示されます。
視床前核(ANT)、前腹側核(VA)、外側腹側核(VL)、後外側腹側核(VPL)、後内側腹側核(VPM)、背内側核(MD)、背外側核(LD)、後外側核(LP)、視床枕(Pul)、髄板内核群、視床網様核、外側膝状体、内側膝状体など
このようにはじめは、一つの赤い卵円形をしていた視床です。しかし、区分けをされてそれぞれの核について名称の紹介をすると視床の繊細さが伝わってきますね。
次に、

・それぞれの核の役割

・核が損傷するとどのような症状が出現しやすいと言われているか

この2点について、これまで報告されている文献などの内容を元に解説を進めていきます。
この解説にあたっては、視床の核は大きく3つのカテゴリーに分けることが可能です。
そのため、その3つの核に大きくカテゴリーを分けて、それらに属する核ごとの解説をします。

3つカテゴリーの核に分けられます。

視床の機能別イラスト特殊核、連合核、非特殊核
冒頭のように詳細な核は、大まかな機能別に特殊核、連合核、非特殊核の3つカテゴリーで示すことができます。
ここからは、これらの3つのカテゴリーを元に冒頭のような詳細な核に触れて解説を進めます。

①特殊核:運動と感覚が主役

特殊核に属する核

前腹側核、外側腹側核、後外側腹側核、後内側腹側核

特殊核、前腹側核、後外側腹側核、後内側腹側核、外側腹側核

特殊核の機能

特殊核は、感覚と運動機能に関与します。

特殊核に、視床出血や視床梗塞などの範囲が及ぶと”感覚障害”や”運動麻痺”が出現する可能性が高くなります。

それぞれの詳細な神経核の機能

視床と感覚説明図
西平ら(2005)は、
・体幹や四肢の感覚=後外側腹側核頭部
・顔面の感覚、味覚=後内側腹側核
に分かれていると述べています。
松波ら(2002)は、
後外側腹側核は皮膚に触れることで活動的になる(下記イメージ動画)
この動画のように、自分の手は動いておらず、触れているもの(動画上では筆)が動くまたは、感覚を感じる程度の力で皮膚に触れると、皮膚から神経を経由して脊髄を通過して、視床の後外側腹側核を活動的にするとされています。
外側腹側核や前腹側核は能動的な動きを行なって物に触れている時に活動的になる。
この動画のように、指や腕などを動かし物を操作する時に得る感覚は、外側腹側核や前腹側核で活動的になると報告されています。
この他にも、同様に外側腹側核や前腹側核は中野(2006)が、運動機能を制御するのに重要であると報告しています。この場合、運動失調や不随運動が生じることがあるとされています。
視床と運動関係図

参考文献
・西平賀昭・他:運動と高次神経機能.pp84-95.杏林書院, 2005.
・松波謙一・他:運動と脳.pp135-148,サイエンス社,2002.
・中野隆:視床の機能解剖(1).理学療法 23:628-633,2006

特殊核のまとめ

視床特殊核

・特殊核は、前腹側核、外側腹側核、後外側腹側核、後内側腹側核の4つで構成されている。

・運動制御は前腹側核、外側腹側核が関与する。損傷すると運動失調様の振るえとも思われる症状が出現する。

・感覚は、外側腹側核、後外側腹側核、後内側腹側核が関与する。

・自ら物を触って動かして得るような感覚は外側腹側核が関与する。損傷すると物を自ら動かしても感覚が鈍い。

・相手側から触れられて得るような感覚は後外側腹側核が関与する。損傷すると触れられても感覚が鈍い。

・後内側腹側核は頭部、顔面の感覚と味覚に関与する。損傷すると頭部、顔面の感覚が鈍い。多くは噛み合わせなどに違和感を生じる。さらに、味覚についても過敏または鈍麻となり嗜好などが変化する可能性がある。

 

 

②連合核:高次脳機能が主役

連合核に属する核

視床前核、背内側核、背外側核、後外側核、視床枕
連合核の部位と機能

連合核の役割

記憶や情動などの認識に関与します。

そのため、視床出血や視床梗塞が連合核に及ぶと

高次脳機能障害を主として出現する可能性が高くなります。

さらに、前述部分の特殊核と連合核を損傷している場合は、両方の症状を合わせた後遺症が出現します。

それぞれの詳細な核の機能

・視床前核

視床前核は、Nicholas D Childら(2013年)が記憶機能に重要な役割をしていると報告しています。

この理由としては、前核はPapez回路に関与していることが、多く知られています【Vertes RPら(2001年)、Aggleton JP(1999年)】。

Papez回路の構成は、海馬体-脳弓-乳頭体-視床前核-後部帯状回-海馬傍回という脳内の各部分を繋ぐ構成となっています(下記映像、図を参照)。
赤=視床水=帯状回青=海馬緑=脳弓紫=乳頭体
Papez回路(視床前核、視床出血)

図引用:

Creative Commons LicenseBodyParts3D, © ライフサイエンス統合データベースセンター licensed under CC表示 継承2.1 日本
Papez回路の役割は近年、記憶機能の中でもエピソード記憶に関連していることが報告されています。
エピソード記憶とは
『個人が経験した出来事に関する記憶』と言われており、出来事の内容や何をいつ、どこで、どんな思いをしたかなど個人の経験に基づく出来事に関する記憶のことを示します。
例:7月13日の朝10時に、渋谷のスタバで同僚Aと席を向かい合わせで、仕事の〇〇の内容について話した。その時は内容が面白くて凄く楽しかった。など

そして、この前核はこのエピソード記憶の構成内容の中でもどこに、どのような方角で、どういった環境でと言う環境の情報を記憶として蓄積するのに非常に重要である可能性が指摘されています。

視床前核を損傷すると・・・

環境が想起できないと会話した内容は覚えているけど、いつ、どこで、どのような環境(席や距離感など)でそれらを行ったかについて記憶として蓄積されません。

よって、その内容についても自ずと感情が付随されにくくなり忘れやすくなってしまいます。

仮にも、例の同僚Aからまた先日と同じところで!っと言われても、先日どこでどんな場所で話したかについても明確にわからなくなってしまいます。

このような、症状を間脳性健忘と言われる場合があります。そのため前核が損傷して記憶障害が現れる場合の多くは、情景などの情報を必要とするエピソード記憶の低下を主訴とする間脳性健忘と言われる症状が現れると西尾ら(2011年)が報告しています。

さらに、動物の実験では、前核には頭位細胞と場所細胞、格子細胞があると言われいます。

例えば街中でのエピソードを想起したときに、

・頭や顔がどちらの方向を向いていて(頭位細胞)
・どこの場所(場所細胞)
・斜めか、まっすぐかなどの街並み(格子細胞)

これら3つの観点から情報や情景を作り出し記憶に対してのエピソードを付加する神経回路とされています。

これらからも、視床前核はエピソードに関する環境や情景などといった外的要因を記憶と付帯させるのに、非常に重要な役割を果たします。

参考文献
・Anterior nucleus of the thalamus: functional organization and clinical implications.Nicholas D Child et al. Neurology. 2013.
・Vertes RP, Albo Z, Viana Di Prisco G. Theta-rhythmically firing neurons in the anterior thalamus: implications for mnemonic functions of Papez’s circuit. Neuroscience. 2001;104(3):619-25.
・Aggleton JP, Brown MW. Episodic memory, amnesia, and the hippocampal-anterior thalamic axis. Behav Brain Sci. 1999 Jun;22(3):425-44; discussion 444-89.
・西尾 慶之,森 悦朗.間脳性健忘.高次脳機能研究31.(3):294-300.2011.

・視床背内側核

ClarkやBurrussらによって神経経路を3つに分けて、それぞれの役割を説明しています。
その中で、福武による論文ではこのような経路を紹介されています。
神経経路1
背外側前頭前野と視床との関係
今回はこの図でも右下の神経経路の図が、理解において重要になるためさらに拡大して解説します。
1:背外側前頭前皮質→尾状核(背外側核)→淡蒼球(背部内側外側)→視床(腹前核,背内側核)→背外側前頭前皮質
背外側前頭前野と視床と神経経路図
この経路が損傷されると
ワーキングメモリーの障害、具体的思考、保続、セット転換障害、転導性亢進、構成や企図の障害
視床出血や視床梗塞においても、ワーキングメモリーや転導性亢進などの症状が出現することがあります。
今回大きく関係している脳の部位として、背外側前頭皮質(dlPFC)と言われる場所があります。
神経経路2
2:前頭眼窩皮質→尾状核(背外側)→側坐核→淡蒼球→視床(腹前核,背内側核)→前頭眼窩皮質
2の経路が損傷されると
行動的脱抑制、気分変調(情緒不安定)、刺激性、衝動性、爆発性、対人関係の感受性喪失、機転の低下
神経経路3
3:前部帯状回皮質→尾状核→黒質→視床(背内側)→前部帯状回皮質
3の経路が損傷されると
運動精神発動性欠如、無動無言、無為またはアパシー、重篤な無感情、動機付けの欠如(通常両側性病変)
これら3つの経路が損傷すると出現しやすい、後遺症についても報告されています。
このように、3つの経路に関わる視床背内側核が損傷されることで、これらの経路損傷後の後遺症が神経伝達の障害によって出現する可能性があります。
参考文献
・Clark, D. L. & Boutros, N. N.: The brain and behavior : An introduction to behavioral neuroanatomy. Blackwell.Science, Malden, 1999, pp. 119-129.
・Burruss, J. W., Hurley, R. A., Taber, K. H., et al.: Func- tional neuroanatomy of the frontal lobe circuits. Radiolo- gy, 214 : 227 ─230, 2000.
・福武 敏夫:左視床背内側核梗塞とsociopathy-非言語的コミュニケーションの観点で-.高次脳機能研究33(2):182-188,2013.

・視床背外側核(下記リンク参照)

視床背外側核の役割について知りたい方は、下記画像をクリックすると記事を読むことができます。

・視床後外側核(下記リンク参照)

視床後外側核の役割について知りたい方は、下記画像をクリックすると記事を読むことができます。

・視床枕(下記リンク参照)

視床枕の役割について知りたい方は、下記画像をクリックすると記事を読むことができます。

このように、嘉戸(2006年)

『視床後部の視床背部外側核、視床後外側核、視床枕などの神経核は立体認知や感覚の統合、眼球運動に関係が深い』

とされています。

参考文献

嘉戸 直樹:視床の機能とその臨床応用.関西理学療法,6;47-49.2006.

 

 

③非特殊核:感覚を分別して調節する。

網様核と髄板内核

非特殊核に属する核

髄板内核群、視床網様核

非特殊核の機能

視覚弁別学習、刺激弁別行動、伝達情報の制御や増幅などに関与します(刺激制御、制御により他部位を亢進させるなど)。
そのため、この部位を損傷すると視覚情報の必要な感覚などが判断できない状態になります(注意機能の低下)。特に、目的としている行動や動作の柔軟な切り替えなどを行えず、また動作を行うのに必要な注意点などを網羅して行動することができなくなります。
髄板内核、視床網様核の参考文献
・行動の選択と柔軟な切り替えにおける視床髄板内核ニューロンの役割と回路のシフト.小林和人(領域代表),福島県立医科大学.cell rep22:2370-2382(2018).
・福田 宏,西川 泰央.視床髄板内核の三叉神経性侵害受容ニ ュ ーロンについて.歯科医学 1990;53(4):349-360.
・Apicella, P. (2017). The role of the intrinsic cholinergic system of the striatum: what have we learned from tan recordings in behaving animals. Neuroscience 360, 81–94. doi: 10.1016/j.neuroscience.2017.07.060

・ McAlonan,K.Cavanaugh,J.Wurtz,R.H.Guarding the gateway to cortex with attention in visual thalamus.  Nature, (2008)456(7220), 391-4.

Byoung-Kyong Min.A thalamic reticular networking model of consciousness March 2010Theoretical Biology and Medical Modelling 7(1):10.


この様に、感覚機能以外にも視床は
運動や記憶、情動や注意や脳活動の抑制と亢進などの役割について深く関係している部位です。
そのため、視床出血や視床梗塞などによって視床を損傷すると、感覚障害以外にも多岐にわたる後遺症が出現する可能性が十分にあります。
ここまでは、視床の核による視床出血や梗塞と感覚障害以外がなぜ発症するのかについて解説を行いました。

次は、出血や梗塞範囲によって、他の神経経路を損傷し多様な後遺症が出現する。
について解説を行います。
視床周辺には多くの神経や脳細胞が存在する?
視床周辺には下記の様に多くの脳神経細胞や神経線維が存在することが知られています。
図(視床周辺の神経)
視床周辺の神経組織
これらの神経細胞や神経線維に対して、「出血した血腫」や「梗塞された範囲」が及ぶと周辺組織まで壊死や破壊が進みます。
その結果、周辺組織を損傷し視床だけではなく、他の組織が担う機能まで損傷し多様な症状を出現させ、最悪の場合は死亡に至ります。

慶応義塾大学の後藤らの報告では、血腫によるADLの自立度と死亡確率についての報告がされています。
この研究では、視床出血556例のデータから分析を行なっています。
生活可能レベル

結 果

血腫量が10ml以下では、54.9%で社会復帰可能または、一部社会復帰可能まで回復で可能。死亡率は5.9%であったと報告されています。

しかし、血腫量が31ml以上になるとADL3の介助生活を行うことができるようになった症例は11.3%であった。また、死亡率も82.8%へと跳ね上がる結果になりました。

死亡率に限って報告すると11〜20mlの出血患者は34.7%、21〜30mlの出血患者は53.5%となっています。

このように、脳出血や脳梗塞を起こすとml単位で損傷される範囲が異なり後遺症を重症化させることになります。
慶応脳血管障害共同研究グループ.脳血管障害の治療と予後に関する多施設共同研究,第2報 視床出血.脳卒中 1992;14:72-78

◆ 4 結論

・脊髄または他の皮質から視床に接続した神経は、各々の核を通過して大脳皮質に投射します。

視床は先に説明した通り、多くの核が集まった複合体として1つの視床という形態になっています。

その核の区分は、下記図の通りです。

視床前核(ANT)、前腹側核(VA)、外側腹側核(VL)、後外側腹側核(VPL)、後内側腹側核(VPM)、背内側核(MD)、背外側核(LD)、後外側核(LP)、視床枕(Pul)、髄板内核群、視床網様核、外側膝状体、内側膝状体など

細かく分けるとまだありますが、これくらいはスタンダードに知っておけば大丈夫です。

このように複数の核が集まり1つの複合体になったのが視床です。

これらの核にのびた神経が接続して視床で伝達情報を処理します。

そして、視床で処理された情報を、さらに大脳皮質などの他の脳細胞へ送り出します。
例えば、視床の後内側腹側核は下記の順番で神経接続を行い顔面の感覚情報を感知するようにしています。
まず始めに顔面の感覚を三叉神経が三叉神経視床路という通路を使って、視床の後内側腹側核へ神経接続して視床まで顔面の皮膚感覚情報を伝えます。そして、視床の後内側腹側核でその感覚の程度や触感などの情報を処理します。そうやって処理された情報を認識する大脳皮質の中心後回の顔面領域に伝達します。そこで初めて感覚を認識するようになります。
三叉神経視床路(外的刺激情報を感知)→後内側腹側核(程度や触感データを脳内で認識できるデータに変換)→中心後回側面(データ認識をして感覚を捉える)
と言った感じで視床のそれぞれの核が機能します。
そのため、上記の視床内側腹側核を損傷すると…顔面で感知したデータを処理できず(強く処理するまたは、弱く処理する、全くデータを読み込めないなど)、中心後回の顔面感覚処理領域に三叉神経が感知した情報を正しく処理できず違った形で処理または、処理できなくなり結果的に感覚を正しく認識できず感覚過敏や鈍麻、脱失、異なった感覚で認知するなどと言った状態になります。
これらによって、視床内側腹側核を損傷すると感覚障害を出現するという手筈になります。
例のように視床内には感覚の神経核もあれば、記憶や情動そして、運動に関与する神経核が存在します。
このような役割別の観点から視床の核は、大きく3つの核に分けられています。

書物によって、多少異なる場合がありますが、多くの論文などでこのようにわかれています。

特殊核の役割
感覚機能と運動機能に重要と報告されています。

後外側腹側核や後内側腹側核は、感覚機能にとって重要な部分になります。

外側膝状体は視覚、内側膝状体は聴覚に関係する役割を備えています。

後内側腹側核
三叉神経視床路→後内側腹側核→中心後回側面

後外側腹側核
脊髄視床路、内側毛帯→後外側腹側核→中心後回内側3分の2

前腹側核
黒質と淡蒼球→前腹側核→放射状に運動前野、補足運動野の領域6

外側腹側核
黒質と淡蒼球および小脳歯状核→外側腹側核→運動野と運動前野の領域4と6

外側膝状体
網膜→外側膝状体→後頭皮質の領域17

内側膝状体
下丘(上丘を経由)→内側膝状態→上側頭回(聴覚皮質)の領域41と42

連合核の役割
記憶機能と情動機能の重要な役割をしていると報告されています。

視床前核は、記憶機能に重要な役割をしていると報告されています。
Anterior nucleus of the thalamus: functional organization and clinical implications.Nicholas D Child et al. Neurology. 2013.
前核はPapez回路に関与していることが、多く知られています。

Papez回路の構成は、海馬体-脳弓-乳頭体-視床前核-後部帯状回-海馬傍回という脳内の各部分を繋ぐ構成となっています。
このPapez回路の役割はエピソード記憶に関連していることが報告されているものの、詳しくはわかっていない部分も多く含まれています。
Vertes RP, Albo Z, Viana Di Prisco G. Theta-rhythmically firing neurons in the anterior thalamus: implications for mnemonic functions of Papez’s circuit. Neuroscience. 2001;104(3):619-25.
Aggleton JP, Brown MW. Episodic memory, amnesia, and the hippocampal-anterior thalamic axis. Behav Brain Sci. 1999 Jun;22(3):425-44; discussion 444-89.

動物の実験では、前核には頭位細胞と場所細胞、格子細胞があると言われいます。

例えば街中でのエピソードを想起したときに、
頭や顔がどちらの方向を向いていて(頭位細胞)
どこの場所(場所細胞)
斜めか、まっすぐかなどの街並み(格子細胞)
これら3つの観点から情報や情景を作り出し記憶に対してのエピソードを付加する神経回路とされています。

そのため前核が損傷して記憶障害が現れる場合の多くは、エピソード記憶の低下を主訴とする間脳性健忘と言われる症状が現れます。

西尾 慶之,森 悦朗.間脳性健忘.高次脳機能研究31.(3):294-300.2011.

連合核を構成するもう一つの核が、背内側核と言われています。

背内側核は、前述した前核の記憶に重要なPapez回路とは別に情動に重要なYakovlev回路を構成しています。

ClarkやBurrussらによって神経経路を3つに分けて、それぞれの役割を説明しています。
その中で、福武による論文ではこのような経路を紹介されています。
1:背外側前頭前皮質→尾状核(背外側核)→淡蒼球(背部内側外側)→視床(腹前核,背内側核)→背外側前頭前皮質
2:前頭眼窩皮質→尾状核(背外側)→側坐核→淡蒼球→視床(腹前核,背内側核)→前頭眼窩皮質
3:前部帯状回皮質→尾状核→黒質→視床(背内側)→前部帯状回皮質
これら3つの経路が損傷すると出現しやすい、後遺症についても報告されています。
1の経路が損傷されると
ワーキングメモリーの障害、具体的思考、保続、セット転換障害、転導性亢進、構成や企図の障害
2の経路が損傷されると
行動的脱抑制、気分変調(情緒不安定)、刺激性、衝動性、爆発性、対人関係の感受性喪失、機転の低下
3の経路が損傷されると
運動精神発動性欠如、無動無言、無為またはアパシー、重篤な無感情、動機付けの欠如(通常両側性病変)
このように、3つの経路に関わる視床背内側核が損傷されることで、これらの経路損傷後の後遺症が神経伝達の障害によって出現する可能性があります。
・Clark, D. L. & Boutros, N. N.: The brain and behavior : An introduction to behavioral neuroanatomy. Blackwell
Science, Malden, 1999, pp. 119-129.
・Burruss, J. W., Hurley, R. A., Taber, K. H., et al.: Func- tional neuroanatomy of the frontal lobe circuits. Radiolo- gy, 214 : 227 ─230, 2000.
・福武 敏夫:左視床背内側核梗塞とsociopathy-非言語的コミュニケーションの観点で-.高次脳機能研究33(2):182-188,2013.
扁桃体と前脳基底部や脳幹、小脳などから連絡を双方向にやりとりする神経経路を持っています
そして、前核は後帯状回、背内側核は前頭前野に双方向性神経経路によって入出力を行います視床出血感情失禁あり、パラフレニア症例
https://www.jaot.or.jp/files/page/wp-content/uploads/2010/08/Sagyoryoho38shoreisyo2.pdf浜田 広之ら:視床病変による健忘・作話症状の経時的変化と機能解剖学的解析に関する研究.心身科学 第6巻第1号 (45-53)(2014).

https://agu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=1496&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1

そして、脊髄からきた神経はそれぞれの核を通過した後に、それぞれが対応している大脳皮質に連結します。

もし、この大脳皮質へ伸びた神経が全て一次感覚野だけに連結していると脳出血や脳梗塞が視床で発症した場合は感覚障害だけが現れると考えられます。

しかし、この連結している大脳皮質は、近年の研究によって一次感覚野だけではないと言われています。

こちらの図をご覧に下さい。

具体的には、こちらの図をご覧下さい。
視床のそれぞれの核が、

サムネイル視床と高次脳
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