脳卒中好発部位の視床。英語論文からわかる視床背外側核の実態(英語表記、画像読解方法、神経経路、機能など)。

このページに訪れて頂きありがとうございます。
今回は視床背外側核について、さまざな論文を用いて
英語表記って?
視床のどこにあるの?
画像で確認する方法は?
視床の分類では、どの分類になるの?
神経経路ってどうなているの?
視床背外側核を損傷すると?
視床背外側核に対してのリハビリ理論
こんな内容について、紐解いて解説をします。
参考文献は全て最終節に記載しています。

視床背外側核の英語表記

英語では
『lateral dorsal nucleus』
と表されます。
それぞれの単語の意味は
”lateral=外側、dorsal=背面、nucleus=核”
と訳すことができます。
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視床背外側核ってどこにあるの視床背外側核ってどこにあるの?

 

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視床は上記図の赤色の部分になります。
視床背外側核の位置は、視床の中でも下記図のように視床背側部の外側(白く塗りつぶされている部分)になります。
視床背外側核の位置説明図
視床背外側核の位置説明図

視床背外側核の画像確認方法

視床後外側核のMRI

 

画像読解ポイント

PCC(Posterior Cingulate Cortex:後帯状皮質)部分が描写されている画像所見を用意します。
仮に、PCCが描写されていない場合は視床の背側ではなく、前述の視床図の腹側部分を撮影していることになるので注意が必要です。
視床背外側核確認MRI
PCCが撮影されているスライスでは上記の図を参考に視床背外側核(LD核)を確認することができます。
PCCが撮影されていない(腹側部分の撮影画像)画像は、下記のようになります。視床腹側部スライス
このように、同じ視床を撮影画像でも撮影されている部位は高さによって大きく変わってしまいます。
そのため、十分中して画像読解を行う必要があります。
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視床背外側核の構成

スイスのチューリッヒ大学のA.morle(2007年)によって視床全体の核が整理されています。
A.Morel.Stereotactic atlas of the human thalamus and basal ganglia.CRC Press,2007.
図引用:A.Morel.Stereotactic atlas of the human thalamus and basal ganglia.CRC Press,2007.Morelの報告の中で、視床背外側核(LD)はAの前核群の類になるとされています。
(A=Anterior前核グループ、P=Posterior後核グループ、M=Medial内側核グループ、L=Lateral外側核グループ)
これらの各核群(前核グループ、後核グループなど)の分類によってそれぞれの機能的類は大きく異なります。
Grod(2020)らは視床の中でも辺縁系と関わりのある部位を下記の3つの核群に分けています。
1:視床前核群
2:視床手綱核
3:視床背内側核
これらのことから、視床背外側核は前核群に分類され、辺縁系と関わりがあることが理解できます。
では、具体的に視床背外側核がどのような神経経路を構成しているかを解説していきます。

視床背外側核の神経投射のある部位

Brook.A.L.perry and Anna.S.Mitchell.considering the evidence for anterior and laterodorsal thalamic nuclei as higher order relays to cortex.Front.Mol.Neuroscience.12:167.2019.
図引用:Brook.A.L.perry and Anna.S.Mitchell.considering the evidence for anterior and laterodorsal thalamic nuclei as higher order relays to cortex.Front.Mol.Neuroscience.12:167.2019.
Wolfgang Grod,Vinod jangir kumar,Almut schut,Tobias Lindig,Klaus scheffler.The anterior and medial thalamic nuclei and the numan limbic system:tracing the structural connectivity using diffusion weighted imaging.nature reserch.science report(2020)10:10957.
図引用:Wolfgang Grod,Vinod jangir kumar,Almut schut,Tobias Lindig,Klaus scheffler.The anterior and medial thalamic nuclei and the numan limbic system:tracing the structural connectivity using diffusion weighted imaging.nature reserch.science report(2020)10:10957.
上記の図のようにオックスフォード大学のBrook.A.Lら(2019年)やnature誌にも2020年に掲載されたドイツのマックスプランク研究所サイバネティクスのW.Grodによって730人(男性329人、女性401人:右利き693人、左利き37人)を対象に調査して整理されています。
視床背外側核の神経経路
図:BrookらとGrodらの論文を元に構成すると上記のような神経経路になります。
日本語に訳すと上記の図のようになります。
①視覚を司る視覚野(後頭葉)や外側膝状体
②海馬や頭頂葉や脳梁膨大後皮質などの空間の立体感や概念形成などの空間の情報を統合する部位
③触られたあったかいなど様々な感覚を最終的に認識する中心後回
④運動のイメージ化を行う補足運動野
⑤脳で認識した情報を脳内の前後に伝達する帯状回や前帯状皮質
⑥感情などを協調的に働かせる眼窩前頭皮質や嗅内皮質
⑦意欲や運動学習、感情さらには、体のホルモン調節などを行う乳頭体や扁桃体
⑧記憶などを司る前交連、歯状回、海馬傍回。
⑨視覚と体の姿勢を協調的に調節する上丘や腹側被蓋など様々働きを行う部位
これらに神経投射し関連性があるとされています。
また、この神経経路は相互接続性があることも、Bentivoglio M(1993)、Yeterian EH(1985、1988、1997)、Vogt BA(1987、1979)、Selemon LD(1988)、Aggleton JP(1986)、Shibata H(2003)、Morris R(1999)、Veazey RB(1982)これらの論文によって述べられています。
さらに、視床背外側核から進展した神経線維は
『左右差がある』
ことも確認されています。
W.Groddら(2020年)は、拡張拡散画像にて下記の図のような結果であることを報告しています。
Wolfgang Grod,Vinod jangir kumar,Almut schut,Tobias Lindig,Klaus scheffler.The anterior and medial thalamic nuclei and the numan limbic system:tracing the structural connectivity using diffusion weighted imaging.nature reserch.science report(2020)10:10957.
図引用:Wolfgang Grod,Vinod jangir kumar,Almut schut,Tobias Lindig,Klaus scheffler.The anterior and medial thalamic nuclei and the numan limbic system:tracing the structural connectivity using diffusion weighted imaging.nature reserch.science report(2020)10:10957.
・右側の視床背外側核から進展している神経線維は、右眼窩前頭葉に優位に進展しています。
・左側の視床背外側核から進展している神経線維は、左頭頂葉方向に優位に進展しています。
このように、視床背外側核は多くの部位と関わりさらに左右差を認める神経経路として特徴のある神経核です。
注意点としてこれらの部位には、Grodらの論文を読むと理解できますが視床背外側核以外の視床前核群(AM、AV、AD)からも同様の部位に神経投射があります。これらによって包括的アーキテクチャが成立していることが想像できます。また、アーキテクチャが非成立な中脳上丘や被蓋野部分の障害は時に視床背外側核の損傷によって顕著に現れる場合があります。
これらのポイントを押さえた上で、次は視床背外側核を損傷した場合の後遺症の程度や症状について解説をしていきます。
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視床背外側核の機能と役割

視床背外側核は、空間認知や学習に関与しているとの報告が多数あります(Mizumori et al1994、Worburton et al1997、Wilton et al2001、van Groen et al2002)。また、Katherineら(2004年)はYeterian EHら(1988年)、Asanuma Cら(1985年)の研究論文から自身の手掛けたThe limbic thalamusにて感覚手段、方法とモチベーション、注意の統合に関与していることを述べています。
これらは、先に述べた神経回路図からも分かるように、空間認知は頭頂葉や脳梁膨大後皮質、学習は扁桃体などによるドーパミン作用と、海馬などによる記憶に携わる部分、感覚を司る中心後回やモチベーションなどと関わる扁桃体、乳頭体、眼窩前頭皮質、注意の統合に関わる海馬や頭頂葉などと言った部位と神経回路を構成していることからも非常に妥当性のある機能となります。
まとめると下記のような機能を持っていることになります。
1:空間認知(頭部方向)
2:学習(記憶を含む)
3:感覚統合
4:意欲(モチベーション)
5:注意の統合
そのため、視床背外側核を損傷すると上記の1〜5までの役割が消失、脆弱になり後遺症として部分的に症状が現れることがあります。
しかし、視床背外側核が損傷されたからと言って
『全ての症状が重度に出現しません。』
ここからは、その理由について解説をします。

視床背外側核のみの損傷では重度に後遺症の症状が出ない理由

その理由は…
視床背外側核以外の前核群(AM、AV、AD)からも同様の部位に神経接続があります。そのため、包括的アーキテクチャが成立していると述べたように、一部が損傷しても僅かな部分的に限局して症状が出現することがわかります。
例えば、海馬に至っては視床背外側核を除く視床前核群を構成するAM(前内側核)、AV(前腹側核)、AD(前背側核)全ての視床前核群が神経投射をしています。また、脳梁膨大後皮質も同様です。そのため、一概に視床背外側核が限局的に損傷された場合は重度には症状が現れないことも少なくありません。
フィンランドのクオピオ大学のThomas.Gやアメリカのアラバマ大学のJ.michaelら(2002年)らのラットによる研究があります。内容は視床背外側核のみが損傷した場合と、視床前核を含めた二箇所が損傷した場合に空間路の学習成績を研究した報告があります。この研究結果では、明らかに視床背外側核と前核の両核を損傷した場合の方が空間路の学習成績が低下することが報告されています。
また、包括的アーキテクチャ論が視床背外側核の限局された損傷をしたラットは空間路の学習ができたことです。
逆に、飯星ら(2006年)の報告の様に視床でも多岐にわたる損傷範囲によって、その症状はことなってきます。
これらのことから、視床背外側核が損傷しているからと言って前述のような、視床背外側核の機能が全て低下し日常生活に支障をきたすかと言われると、そうではありません。
そのため、視床出血の患者様やお客様ではどのように視床出血の血腫などが進展しているかなどを確実に確認することが大切になってきます。

視床背外側核のリハビリについて

また、これは僕個人的な見解でこれから研究していくことになると思いますが…
視床背外側核が限局に損傷している場合、先に述べた視床前核群の残存部を積極的に使うような課題設定を行うことで、それらの機能は補える可能性があるのではないかと思っています。
さらに、神経の相互接続性から考えて視床背外側核の神経投射を受ける部位を積極的に利用する課題などを提供することで何かしらの神経変性が成立してくるのではないかと思います。
よく、臨床現場で使われる治療(川平法やミラー、電気刺激、CIなど)は後述の部位に対して効率的に働きかけている可能性が個人的な見解として非常に興味があるところです。
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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参考文献

・Brook.A.L.perry and Anna.S.Mitchell.considering the evidence for anterior and laterodorsal thalamic nuclei as higher order relays to cortex.Front.Mol.Neuroscience.12:167.2019.
・Wolfgang Grod,Vinod jangir kumar,Almut schut,Tobias Lindig,Klaus scheffler.The anterior and medial thalamic nuclei and the numan limbic system:tracing the structural connectivity using diffusion weighted imaging.nature reserch.science report(2020)10:10957.
・Bentivoglio M, Kultas-Ilinsky K, Ilinsky I: Limbic thalamus: structure, intrinsic organization, and connections, in Neurobiology of Cingulate Cortex and Limbic Thalamus: A Comprehensive Handbook. Edited by Vogt BA, Gabriel M. Boston, Birkhauser, 1993, 71–122.
・Yeterian EH, Pandya DN: Corticothalamic connections of paralimbic regions in the rhesus monkey. J Comp Neurol 1988; 269:130–146.
・Vogt BA, Pandya DN, Rosene DL: Cingulate cortex of the rhesus monkey: I. Cytoarchitecture and thalamic afferents. J Comp Neurol 1987; 262:256–270.
・Selemon LD, Goldman-Rakic PS: Common cortical and subcortical targets of the dorsolateral prefrontal and posterior parietal cortices in the rhesus monkey: evidence for a distributed neural network subserving spatially guided behavior. J Neurosci 1988; 8:4049–4068.
・Vogt BA, Rosene DL, Pandya DN: Thalamic and cortical afferents differentiate anterior from posterior cingulate cortex in the monkey. Science 1979; 204:205–207.
・Aggleton JP, Desimone R, Mishkin M: The origin, course, and termination of the hippocampothalamic projections in the macaque. J Comp Neurol 1986; 243:409–421.
・Shibata H, Yukie M: Differential thalamic connections of the posteroventral and dorsal posterior cingulate gyrus in the monkey. Eur J Neurosci 2003; 18:1615–1626.
・Morris R, Petrides M, Pandya DN: Architecture and connections of retrosplenial area 30 in the rhesus monkey (Macaca mulatta). Eur J Neurosci 1999; 11:2506–2518.
・Veazey RB, Amaral DG, Cowan WM: The morphology and connections of the posterior hypothalamus in the cynomolgus monkey (Macaca fascicularis). II. Efferent connections. J Comp Neurol 1982; 207:135–156.
・Yeterian EH, Pandya DN: Corticothalamic connections of the posterior parietal cortex in the rhesus monkey. J Comp Neurol1985; 237:408–426.
・Yeterian EH, Pandya DN: Corticothalamic connections of extrastriate visual areas in rhesus monkeys. J Comp Neurol 1997; 378:562–585.
・Mizumori SJ, Miya DY, Ward KE. Reversible inactivation of the lateral dorsal thalamus disrupts hippocampal place representation and impairs spatial learning. Brain Res. 1994;644:168–174.
・Warburton EC, Baird AL, Aggleton JP. Assessing the magnitude of the allocentric spatial deficit associated with complete loss of the anterior thalamic nuclei in rats. Behav Brain Res. 1997;87:223–232.
・Wilton LA, Baird AL, Muir JL, Honey RC, Aggleton JP. Loss of the thalamic nuclei for “head direction” impairs performance on spatial memory tasks in rats. Behav Neurosci. 2001;115:861–869.
Thomas van Groen T, Kadish I, Wyss JM. The role of the laterodorsal nucleus of the thalamus in spatial learning and memory in the rat. Behav Brain Res. 2002;136:329–337.
・Yeterian EH, Pandya DN: Corticothalamic connections of paralimbic regions in the rhesus monkey. J Comp Neurol 1988; 269:130–146.
・Asanuma C, Anderson RA, Cowan WM: The thalamic relations of the caudal inferior parietal lobule and the lateral prefrontal cortex in monkeys: Divergent cortical projections from cell clusters in the medial pulvinar nucleus. J Comp Neurol 1985; 241:357–381.
・Katherine H. Taber, Ph.D., Christopher Wen, M.D., Asra Khan, M.D., Robin A. Hurley, M.D.The limbic thalamus.J Neuropsychiatry Clin Neurosci 16:2, Spring 2004.
・飯星 智史ら.視床出血の臨床症状と障害部位の検討.函医誌 第30巻 第1号2006.
脳出血、脳梗塞、視床出血
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