被殻出血のⅤ型に関与する視床の特殊核についてその構造と機能

巻末に引用文献全て記載しています。ぜひ、興味があれば読んでみることをオススメします。
今回は、今後被殻出血におけるⅤ型の解説を行う前にそれに関与する視床と言われる部分について解説を行います。まずは、視床全体像について簡単に解説を行います。

視床とは

視床とは脳の中でも
間 脳
と言われる分類に区分されています。
この間脳の中でも視床だけで、4/5を占めるとされており大きい神経の塊になります。
この、視床について多くの人は感覚機能の中枢でしょ?などと捉える人が多いです。なので、なぜ視床出血なのに麻痺しているの?感覚の中枢なら麻痺出ないんじゃ?と突っ込まれると答えることができない人も少なくありません。
しかし、前述したように間脳の4/5を占める神経の集まった部分だけに、実は視床の役割は『感覚の中枢』と言う機能だけではありません。
と言いますのも、視床は様々な神経核の集合体で部位によって様々な役割を持っています。(後藤 淳:2005年.鈴木 俊明:2003年.)
こちらの下記をご覧ください。視床は神経核の集合体であり、神経核は大きく3つに分類されます。
①特殊核:運動や感覚に関連深い
②連合核:高次脳機能に関連深い
③非特殊核:意識などの賦活系と関連深い
とこのようにそれぞれの部位によって様々な役割を果たしていることがわかります。
そのため、これから感覚の中枢ではなく神経核の集合体であり特に感覚機能に深く関わるがその他にも、『運動機能』や『高次脳機能』『意識』などと関わるとご理解して頂ける、視床出血の患者様のどの部分に問題が起こり、後遺症が出現してどの部位は残存しているから可塑性や賦活を図るならなどと言った論理的な治療方法を考察することができ、それは患者様に大いに喜ばれると思いますし、結果として患者様の後遺症を前向きに変化させることができる一歩になると思います。
そこで今回は、冒頭でお伝えした通り『被殻出血におけるⅤ型の症状』の解説を行う前に、視床の機能について触れより臨床で味わい深いトレーニングやリハビリなどが提供できるように視床について触れて解説を行いたいと思います。
まず初めは、①特殊核について解説を行います。

視床:特殊核について

視床の特殊核
以前の被殻出血においても、解説した通り視床を言っても多岐に分類されます。そして、それぞれの役割(機能)は前述でも触れたように異なります。
今回解説させて頂いている『特殊核は大きく分けて4つ』です。
①前腹側核(VA)
②外側腹側核(VL)
③後外側腹核(VPL)
④後内側腹側核(VPM)
※下記図の赤文字部分です。
視床の特殊核
これらが特殊核として構成されています。また、この①〜④はさらに分類されます。そして、役割も異なります。
そのため、大きく特殊核を理解してもらったことろで、これらの①〜④についての
『分 類』
『機 能』
『損傷するとどのような症状が出現しやすいか』
この3つについてそれぞれ解説を行います。

前腹側核(VA)

分 類

このまま1つ「前腹側核」とされています。

機 能

随意運動で活動し、自ら能動的な動作を行った時に活動する性質がある。また、大脳機能核の淡蒼球からの投射神経線維が接続されており、前腹側核を経由して運動前野と補足運動野へ神経伝達を行う。この際に運動制御を行っているとも考えられている。これらにより、損傷すると運動前野や補足運動野の機能障害が出現します。さらに、この前腹側核を中心として血腫が情報に広がる場合は、視床前核に対しても影響を与える可能性があり前核は脳弓、乳頭視床路から入力を受け、帯状回に神経接続(投射)することで情動や記憶、意識に関与しており、この部位から視床前核へ血腫進展した場合は健忘や意識障害、情動面の後遺症が出現する可能性がある(野田ら:2018)

損傷によって現れる症状

運動失調や不随運動が発生する。ほかの部位と重複した場合は後に解説しますが、単体にこの部分だけ損傷されていれば左記のように軽症で済む場合が多いです。


外側腹側核(VL)

視床のVL

分 類

吻背側核、前吻腹側核、後吻腹側核、中間(外側)腹側核にさらに区別されます。

機 能

随意運動で活動し、自ら能動的な動作を行った時に活動する性質がある(小田 哲:,2006年)。また、大脳基底核の淡蒼球や小脳の小脳核からの神経接続(投射)があり、そこから一次運動野へ神経接続(投射)を行うようになっています。

損傷によって現れる症状

不随運動や小脳性の失調が出現するとされています。VAの解説同様でここだけ単体であれば軽症で済みます。しかし、下記のような場合は異なります。

前腹側核(VA)や外側腹側核(VL)を同時に損傷すると

そのほかの前核群(AN)や背内側核(DM)に対しても影響を与える可能性があり、それらをAnterolateral Hemorrhageと言います。この場合の症状は、軽度の片麻痺、半身感覚障害、前頭葉障害型の高次脳機能障害を出現するとされています(飯星ら:2006年)。また、『前腹側核や外側腹側核は頭頂連合野に対しての神経接続(投射)を行なっている』とされており、この頭頂連合野の機能に対しても問題を起こす可能性が出現します。


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後外側腹側核(VPL)

視床のVL

分 類

外尾腹側核、外側小細胞性尾腹側核

機 能

皮膚に触れられた感覚を察知する。主に、『四肢』『体幹』からの感覚入力(触覚、痛覚など)(後外側腹側核の内側が上肢、外側が体幹と下肢)を受けて、一次感覚野へ神経接続(投射)を行う(小笠原2013年、嘉戸2006年)とされています。

損傷によって現れる症状

感覚障害が四肢と体幹(片側脳損傷であればその対側へ)に出現します。また、次の後内側腹側核(VPM)の説明の後に解説しますが、VPLだけの損傷では上記のような症状で済みます。しかし、どこかと合わせて損傷するとそうも行きません。


後内側腹側核(VPM)

視床のVL

分 類

後尾腹側核(VPM proper)、内側小細胞性尾腹側核(VPM pc:内側部VPC pcm、外側部VPC pcl)このように分離されます(長谷川1990年)。

機 能

頭部、顔面部分からの三叉神経の感覚入力と味覚情報に対して反応し、一次感覚野の顔面領域と味覚領域に神経接続(投射)を行う。

損傷によって現れる症状

顔面の感覚障害を引き起こすとされています(鴨川ら:2006)。
上記の2箇所(後外側腹側核、後内側腹側核)を合わせて損傷すると下記のような症状が現れます。

“後外側腹側核”、”後内側腹側核”を損傷すると

感覚障害(異常感覚を含む)や視床痛が出現する可能性がある。視床痛が必ずしも発症する訳ではない。しかし、視床痛を伴う場合の病変は、この後内側腹側核や後外側腹側核などに限局している場合が多く、感覚電位の制御等が困難になった結果、興奮性に体性感覚野に対して働きかけた結果出現するのではないかと言われています。さらに、右視床病変(左片麻痺)の場合が視床痛の過半数を占めていると報告されています(中野:2006年)。

さらに、”正中中心核(CM)”や”視床枕(Pul)”と言われる部位も合わせて、出血の範囲が及ぶと重度の片麻痺や感覚障害、一過性の意識障害、垂直性眼球運動障害、対光反射の保たれた縮瞳などが出現する(飯星ら:2006)と報告しています。


まとめ

今回は視床の特殊核について解説を行いました。
この解説でわかるように、単純に視床って感覚の中枢でしょうと考えがちですが実はそれは大きな間違えです。運動や意識、高次脳機能など様々な機能に対して関係しています。
これらの理解を今後も一緒に学んで深めて行き、より後遺症を改善させるいい方法を考えて行きましょう。

最後まで、読んで頂きありがとうございました。


引用文献

・Eric R,Kandel:カンデル神経科学.

・後藤 淳:中枢神経系の機能解剖-感覚入力系-.関西理学 5:11-21,2005.

・鈴木 俊明:神経疾患の評価と理学療法.pp436-440,エンタプライズ,2003.

・嘉戸 直樹:視床の機能とその臨床応用.関西理学 6:47-49,2006.

・野田ら:前腹側核を中心とした視床出血と理学療法.理学療法ジャーナル 52:5.2018.

・小田 哲子:視床の構造と線維連絡.Clinical Neuroscience 10:1088-1091,2006

・飯星 智史ら:視床出血の臨床症状と障害部位の検討.函医誌,30-1.2006.

・小笠原ら:鍼回旋刺激および輻射熱刺激による後外側腹側核の侵害受容性ニューロンの活動の抑制.明治国際福祉大学誌 8;23-39,2013.

・長谷川 彰則.口腔内から体性感覚入力を受ける視床後内側腹側核ニューロンの大脳皮質投射について.歯科医学 1990;53(6):463-474.

・中野 隆:視床機能解剖(2).理学療法 23:738-744,2006.

・鴨川ら:視床手口感覚症候群の臨床的検討.日本老年医学会雑誌 2006:43:.126-131.

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