Ⅲa型:被殻から内包後脚に及ぶ血腫進展の被殻出血の症状と予後

これを読むにあたって、なかなか読む気がしなくてもOKです。ただ、読んで少しでも療法士の方は明日の臨床で生かして欲しい、問題や悩みを解決してほしい。患者様やご家族様であれば症状を理解して前を見て進んでほしいそんな気持ちを持って記載しています。知れば、基底核の画像判断なんて本当に簡単になります。少しでも目の前の患者様やお客様の治療に生かして頂ければ幸いです。

Ⅲa型:被殻から内包後脚に及ぶ血腫進展の被殻出血について

被殻出血の血腫進展としてI型とⅡ型を前回は解説をしました。

気になる方は、下記のリンクより閲覧して下さい。

I型:内包の外側に限局した被殻出血

Ⅱ型:内包前脚から内包外側に限局した被殻出血


Ⅲa型の被殻出血とは

IからⅢ型血腫被殻

この上記の図は前回まで解説をしたI型Ⅱ型と、今回解説を行なっているⅢa型までを順番に並べた図です。

今回解説を行うⅢa型は前回までの血腫進展の症状とは異なり、症状が重症化します。

まず、今回の血腫進展先でもある内包後脚は区分で顔面、上肢、体幹、下肢と別れています。

内包区分

ではどのように症状が現れるのか症状の種類別に解説を行います。

運動麻痺

この型の出血は運動麻痺の症状が中等度から重度で出現します。

Ⅲa型のように、被殻から内包後脚までの血腫に至ると体性感覚誘発電位(SSEP)の振幅減少や消失と言った減少が出現することが確認されています。

衛藤ら(1996年)が報告した研究のⅢa型の被殻出血ではSSEPの振幅減少や消失が著名に出現していることが確認されています。この現象の理由として、中西ら(1994年)の報告では感覚の中継核である視床腹側核や視床外側後腹側路(VPL)に対して影響を与えている結果としてこのような現象が現れている可能性があると報告しています。

この下記に示すように視床外側後腹側路(VPL)は、感覚の中継核として視床の中でも重要な役割を果たします。

上記の図をご覧いただくと内包後脚方向へ血腫進展をすると、VPLなどに対して影響を与える可能性があることがわかります。

そして、このSSEPの減少や消失と言った結果は、完全に内包後脚方向へ血腫が進展している証拠ともなり得るため運動麻痺の機能予後に対して影響を与える目安としても考えられています。

そのため、SSEPの結果が振幅の減弱や消失に至っている場合は、予後が良くない状態になります。

ただし、振幅の低下や減弱と言った消失をしていない場合は、上肢については衛藤ら(1996年)に報告した症例データから4例に1人と言う結果になっていますので大きく改善を見込めます。


感覚機能

正常から脱失と障害の程度範囲が個々によって大きく異なる場合があります。

この現象の理由は、運動麻痺でも記載したように視床に関する領域に対して影響を与えているか、与えていないかによってこれだけの範囲で異なる症状が出現している可能性があります。

衛藤ら(1996年)の報告の中でも10例のⅢa型の被殻出血患者を対象としています。しかし、感覚機能が表在感覚、深部感覚共に正常な例は2例のみです。その他の対象者は表在または深部のどちらか一方が鈍麻、または両方共に鈍麻、脱失と言った感覚機能障害を呈しています。

このように、内包後脚までの血腫進展は感覚機能に対して影響を与える可能性が非常に高いです。


 

高次脳機能

半側空間無視

右被殻出血における左半側空間無視は多く報告されています。その中でも今回の血腫Ⅲa型における左半側空間無視について舟橋ら(2017年)の報告があります。

この報告の中でⅢa型に属する被殻出血の中でも、約42.4%で左半側空間無視を認めたと報告しています。

また、後に解説するⅣ型やⅤ型などの内包前後脚または視床へ被殻を含んで血腫の進展をする場合は、全例左半側空間無視を認めたと報告しています。

このように、被殻を含む内包後脚への血腫進展の場合は出血量が多く多機能に渡って影響を与え左半側空間無視を誘発しやすい傾向にあります。


失語症

Ⅲa型の被殻出血で左脳出血(右片麻痺)で出現します。

この部位についての失語症には、Cappa SF(1983年)、Naeser MA(1982年)、堀越ら(1993年)が内包後脚へ血腫進展した場合について失語症の重症度も重くなると報告しています。

ただ、一方で西山ら(2013年)が報告している内容では内包後脚へ血腫が進展する場合ではなく、これだけの出血量によって島皮質(被殻より外側)や尾状核(被殻より上前方)へ血腫が広がる可能性を指摘しており、結果的にⅢa型の内包後脚まで血腫進展する被殻出血においても失語症との関連が強いのではないかと報告しています。

これらから考えられることとして、両内容共に一致している点としては出血量です。

出血量が多ければ多いほど内側の内包後脚に対しても影響を及ぼすが、それと同時に外側に広がった結果的に島皮質などへ影響が波及し、失語症が現れている可能性も考えられる。

左被殻出血による失語症の出血量目安は、杉山ら(1989年)、西山ら(2013年)の研究内容からも25ccが失語症の程度の目安になり25cc以下であれば発症直後は出現しても、予後は比較的良好となる可能性があります。


 

予後

運動麻痺の予後

衛藤ら(1996年)の研究結果を見るとわかりますが約40%が実用手に至る可能性があります。また、運動麻痺の項目で解説したように感覚機能に影響を及ぼしても実用手まで改善する症例も多く存在しており前回のI型やⅡ型のように強く断言はできませんが、回復する可能性は大いにあります。

半空間無視の予後

前島ら(1994年)の報告がわかりやすいです。
この中で左半側空間無視において、あり群となし群で病巣の比較を行なったところあり群では内包前脚部分への血腫進展で有意差があったと報告しています。また、これに加えて出血量が多い場合は好発し残存する可能性を示唆しています。中でも被殻出血において20ml以下の出血量であれば左半側空間無視を認めなかったと報告されています。
さらに、出血量が40mlを超えた被殻出血患者の場合退院までに消失した者を除いて、約11ヶ月フォローアップを行い8例中4例で左半側空間無視が残存したと報告しています。
これらから、30ml前後の場合は回復を望める可能性があり40mlを大いに超える出血量の場合は、今回の説明を行なっているⅢa型の血腫より大きくなる可能性があり回復が難しい場合があるということになります。

失語の予後

荒木ら(1979年)の報告が内包後脚などを詳細に比較を行なった研究があります。
この中でも内包後脚の8例中6例で失語を認めそれらの改善は病巣の大きさに相関していると報告しています。

 

”被殻出血・正中神経刺激短潜時体性感覚誘発電位と上肢機能”衛藤ら(1996年)

”視床出血=正中神経刺激短潜時体性感覚誘発電位”中西ら(1994年)

”快期リハビリコース病棟=右被殻出血と半側空間無視”舟橋ら(2017年)

Cappa SF, Cavalott G, Guidotti M, Papagno C, Vignolo LA: Subcortical aphasia: Two clinical ̶ CT scan correlation studies. Cortex, 19: 227–241, 1983.
Naeser MA, Alexander MP, Helm-Estabrooks N, Levine HL, Laughlin SA, et al.: Aphasia with predominantly subcortical lesion site. Arch Neurol, 39: 2–14, 1982.
堀越 徹,永関慶重,小俣朋浩,橋爪和弘,貫 井英明,他:被殻出血急性期における言語障害 の推移.脳神経外科,21: 411–416, 1993.
半側空間無視を呈した脳出血患者の検討.前橋ら(1994年)
CT所見よりみた脳卒中片麻痺、失語症の予後.荒木ら(1979年)
Ⅲa型:被殻から内包後脚に及ぶ血腫進展の被殻出血の症状と予後
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