本日は被殻と感覚機能について解説を行います。これを知ってもっと大きく広く脳全体の構造について着目して、臨床の取り組みや患者様やお客様を前に進める一歩となれば幸いです。
では、早速解説をしていきます。
目次
被殻出血に伴う感覚障害の特徴
今回解説している被殻機能の破綻に伴う感覚障害の特徴として、視覚遮断を行う、視覚遮断を行わない場合において感覚障害の程度が異なるのが特徴です。
もし、知らない場合は明日臨床で確認してもらうと程度が変化します。
手指や下肢など感覚入力が行われている部位が全く分からず、感覚を感じ取ることができません。そのため、純粋に被殻が損傷された範囲の感覚障害が出現します。
「なんとなく感じるや、なんとなく荷重がかかっている感じがする、地面の感じがする、よくわからない」などと言ったぼんやりとした感覚障害に対しての返答をすることが多いです。
僕も実際臨床で、確認をすることが多いですがこの類の返答が非常に多く、運動のパフォーマンスも視覚で確認してもらっている方が良好になることが非常に多いです。
この原理は、「被殻本来の感覚機能に対しての役割」と「その他の部位から受ける役割」とで大きく異なるものとなります。
では、これらの内容について実際の研究論文などを用いて解説を行います。
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感覚由来の大脳皮質と被殻投射
まず被殻は下記の図で示す緑の部分になり脳の深層部分に存在します。
この被殻部分には上行伝導路を経由して手指から感覚入力された感覚情報が一次感覚野へ入力されてから、下記で示す図の3通りの経路が被殻と関係のある経路を構成し、これらにて皮質-被殻(基底核)-皮質と運動や感覚の処理を行います。
本題がずれるため今回は上行路の解説を省きます。詳細は、上行路で検索するとすぐに出てきます。
図引用:Reilly R. Kayser, Ivar Snorrason, Margaret Haney, Francis S. Lee, and H. Blair Simpson.The Endocannabinoid System: A New Treatment Target for Obsessive Compulsive Disorder?.Cannabis and Cannabinoid ResearchVolume 4, Number 2, 2019.
※Putamen部分が被殻です。
この図ではa)感覚運動路、b)認知路、c)感情路として整理しています。
そして、これらの経路の投射先であるどこか一箇所でも損傷されると、基本的に感覚障害が出現します。
脳の進化の中で感覚由来の形成がされてきていることがわかります。
試しにネットでリサーチすると・・・
辺縁系と感覚機能

引用:石井 大典 脳科学とリハビリテーションVol11:2011一部抜粋
運動前野と感覚機能

引用:丹治 順 頭頂連合野と運動前野はなにをしていのか?
前頭前野と感覚機能

引用:山口 修平ら 注意・記憶機能における前頭葉の役割
このように、被殻と関係のあるループを形成する全てにおいて、感覚と関係の切れない存在あることは間違いがありません。
ではここからは、具体的に様々な被殻と関係する感覚機能についての解説を論文を使用して紹介をしていきます。
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被殻と感覚機能の実際
パーキンソン病の感覚障害について、イタリアローマにあるSpienza大学のConteら(2013)に報告している内容で、被殻を含む基底核の感覚機能の中でも時間的弁別(断続的な刺激と連続的な刺激) の問題を引き起こし、刺激閾値が増加し感覚を感じ取りにくくなると下記の図のようにパーキンソン病の感覚障害について説明をしています。さらに、この報告で面白い所は、S1はpreSMAに入力された感覚入力に依存すると説明しています。

このように刺激閾値の上昇は直接ドーパミンなどと関与する被殻出血でも同様のことが起きていることが考えられます。
そして、この報告の中でも記載されていますが、S1(一次感覚野)はPreSMAの処理過程に対して依存する傾向があると言うことです。
一次感覚野で処理された感覚は、エッジや触感、温度など様々な感覚を受けるわけですが、それだけではその感覚が何なのか例えば「気持ちのいい、サラサラしている」などの概念化はされません。
もし直接されるのであれば、この感情や記憶を引き出す辺縁系部分との直接路がないと説明ができません。
感覚は様々な形に様々な感覚の感情や記憶、触感、エッジ角度などを脳全体でインターフェイスして、最終的に統合されて感覚と言われるものが完成されます。
なので、一次感覚野で受け取る感覚刺激はあくまで符号化されたコードでこれ自体がなんの意味にもなりません。もちろん、一次感覚野や視床と言われる上行路で障害が発生するとこの符号自体の歪みや遮断などが発生し、感覚刺激を受け取ること自体ができなくなることは想像できます。
そしてこのPreSMAの感覚入力の依存に対しては、マンチェスター大学のTamasら(2011)に報告し下記のように投射経路について解説しています。

この図は、左は自ら運動を行い触りに行った場合の経路、右は受動的に刺激入力を行なった場合の経路を示しています。
結局触れることが多く、受動的に触れても必ず関節は動くのであまりこの前述の解説に依存してはよくないですが、触れた瞬間は右の図の経路、そこから指が動けば左の図のような感覚運動処理の過程になります。
先に説明した、Reillyらの被殻の投射先の3つ経路からもわかるように、これらの始発点でもあるBasal ganglia(基底核)は最終的にはM1(一次運動野)への投射経路を持ちます。
しかし、それまでの過程の中で左のように前頭前野や辺縁系または、右の図で示すようにPreSMAに被殻の経由で刺激入力された感覚は一度頭頂連合野へ感覚入力を行うフィードバック機能があります。
これにより、前述したように運動や感覚の統合が行われて初めて外界(感覚など)や内界(記憶、感情など)と合わせて概念化されて初めて感じることができるのです。
さらに、この他にも感覚機能に対してのフィードバック機構として、スイスローザンヌ大学のDavid ら(2014)がキネジアに対しての運動感覚経路の障害を説明するのに、ダイナミックな感覚と運動の関連について正常な状態がどのようになるかを図を用いて説明をしています。

この解説では、単純に感覚機能を捉えるのではなく全てが複合して感覚の形成を行なっており、その中のゲートウェイとして基底核部分いわゆる今回説明している被殻部分が存在する言われています。
ここまでで、触覚入力を行われ、一次感覚野原に入力された触覚刺激は被殻(基底核部分)を通過し3つに別れて(①感覚運動の統合を行う経路、②認知を行う経路、③感情、記憶を司る経路)に別れて波及されます。
そして、その感覚入力を受けて運動感覚経路はPreSAMに入力され再度S1(一次感覚野)へと投射される。最後に頭頂連合野での概念化がされこれが何であるか、またこの感触は筆だななどと言った感覚の形成に至り初めて感覚を認識できるようになります。
ここまで触覚含め感覚自体は被殻を経由する脳全体部分で感覚機能が形成されるという論調で説明を行いましたが、実際の画像所見でこれらのダイナミックな感覚由来のシステムが被殻の損傷によって破綻されるまた、触覚と被殻との関係性について報告内容があるためそれらを用いてより詳しく解説を行いたいと思います。
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被殻と感覚機能の画像的裏付け

この図は、Magdalenaら(2013)に報告された結果で、MAC領域とPCA領域の血管損傷を受けた患者262人に対しての調査で、視覚障害を受けた人と触覚障害を受けた人の部位的検討を行なっている結果です。
この結果からもわかるように触覚を示すtactileは被殻を示すputemanで優位に損傷を受けている結果となります。
また、視覚からの腹側路や背側路に関係のある部位は視覚(visual)部分の障害を発生する頻度も多くあります。
しかし、被殻の特徴は触覚が強く、異様に視覚の影響を受ける可能性が低いことです。
このことは、より運動や体性感覚に対して特化していることが伺える結果でもあると思われます。
さらに、視覚と触覚の機能差別化によって被殻の感覚障害は視覚を優位に機能させることでこのことにより冒頭で述べた被殻を損傷した場合の視覚からの影響力が強く存在しており、視覚遮断と視覚遮断を行わない場合とで被殻を損傷した場合の感覚の感じ方に程度の差が存在することが示唆されます。
そして、ここまで解説したように感覚は脳全体で捉えることの重要性を述べてきましたが、この被殻損傷を受けると脳の全体の活動に対しても影響を与えることが報告されています。

引用:The Contribution of the Putamen to Sensory Aspects of Pain: Insights From Structural Connectivity and Brain Lesions.Brain. 2011 Jul;134(Pt 7):1987-2004.
この検討は、アメリカノースカロライナ州のウェイクフォレスト医学部のChristopherら(2011)が行なった研究報告で、左側は健常者で右側は被殻を損傷した患者になります。それらに対して痛覚入力を行なった結果になります。Rは右脳を示します。
この検討で、健常者と比較して一次感覚野、二次体性感覚野、前帯状皮質、島、視床、小脳、背外側前頭前野、被殻などの多くの領域で活性化が少なかった。と報告しています。
このことからもわかるように、感覚(触覚や痛覚)は一次感覚野のみで形成するのではなく、脳全体をダイナミックに使用して感覚を認知しています。
そして、このように脳全体の不活発な状態に陥る被殻部分の損傷は、急性期の重度の場合まるで体のスイッチが遮断されたように意識障害を伴う場合も少なくなくまた、感覚の他にも記憶や感情、知的な部分にも影響を与えるようになります。
今回まとめている被殻の損傷とはそう言ったダイナミックな脳機能の破綻を引き起こすと同時に、前述したように被殻の投射先は感覚機能が優位な場所でもあるため被殻で損傷されたデータが送信されることで、被殻から投射を受ける部位のクラスタ部分のバグによって感覚障害を引き起こす可能性があります。
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まとめ
今回まとめてみて、僕自身はこの経路を知っていることによって視覚を優位に使い、頭頂葉の賦活を促進させまた、被殻機能を高めるような両側性の課題を行うことである程度の脳の活動を引き出すことができると感じています。
また、今回は脳機能に対しての解説を中心的に行いました。しかし、被殻出血は運動制御や学習などにも深く関与しておりまた、その運動制御が不能または不十分となることで異常筋緊張が出現します。そして筋自体にFーwaveやH-waveと言った特殊は波形を生み出し、そもそも感覚入力に対して悪影響を及ぼす可能性もあります。
脳疾患でもあるが、筋緊張異常を伴う場合はそれらの筋肉自体に対しても目を向けて介入を行う必要があります。
何分不十分な点もあると思いますが、本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。
また、筋肉と感覚などの下位の問題などについても解説を行います。