記事投稿の目的
本日も訪問して頂きありがとうございます。
Karasapo.comの運営を行なっている
作業療法士のUNLの代表です。
今回のタイトル記事に至った理由
1:脳卒中後に肩関節痛を訴える患者様が多い。
2:これらに対しての解決方法が非常に複雑であり、理解するのに非常に時間がかかります。
3:これら「脳卒中後の肩関節痛」に対しての対応が急務であると感じたため今回の記事作成を行いました。
今回の記事の結論
①種々の脳卒中後の肩関節痛を知る
②いろんな視点の知識があれば救える。
③脳予防をすることができる。
これら①〜③のために今回解説させて頂くような形式で知識をまとめています。
では、まずは現状から解説します。
ネット検索の現状
この脳卒中後の肩関節の痛みについてGoogleやYahoo!検索で「脳卒中 肩の痛み」と検索すると…
「専門職に対しての文献」や「一度当施設へ」などと言った検索がヒットします。
しかし、それでは痛みで苦しむ患者様やお客様はもちろん、治療者側も即時に評価や治療を開始させることができません。
そこで、僕自身が肩の痛みに対してこれまで介入してきた臨床経験と文献的情報の提供と考察を踏まえて解説することによって、少しでも肩の痛みが解決されることを願って、今回解説をする記事を作成させて頂きました。
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今回の記事内容
脳卒中後に多い、肩関節の痛みについて
運動機能由来(筋肉、関節構造など)
の内容を中心に解説を進めます。
感覚由来(異常感覚、感覚遮断、感覚過敏など)の疼痛や、心理面が原因の疼痛など種々異なる疼痛を呈しやすいです。
しかし、まずは本文をしっかりと読んで頂き、運動器由来の肩関節痛を理解してほしいと思います。
そのため、感覚器由来の疼痛や心理面由来の疼痛と、
今回解説している運動器由来の疼痛について診断方法や治療方法を含めて混合して考えないように注意して下さい。
青文字が記憶力には良いため、重要ポイントやワード部分は青文字で変換していますので、その部分は必ず覚えながら読んでいただけると幸いです。
脳卒中後の肩関節痛の問題
脳卒中後に肩関節を痛めることは広く知られています。
しかし、それらに対する難点は、
・原因が前述したように多岐に渡る報告にが多い
・病原を鑑別や評価が難しい
・治療やトレーニング立案を行うことが難しい
この3つ要因が関与している場合が多いです。
その結果、脳卒中後の肩関節の疼痛に対しての介入についてしっかりとした対応ができず、疼痛が緩和しないことが多いです。
しかし、本当に原因がわかれば多くの場合は緩和させることが可能な場合が多いです。
ここで一つ問題であるのが、前述したように原因がわからないまま適当にマッサージや関節可動域練習を行なってしまうことです。
そして、これらの方法ではもちろん結果はでません。
その結果「わけがわからん」とか「本当は痛くないんちゃう?」などと言った解釈になってしまうのです。
そして、患者様やお客様の疼痛は維持または最悪の場合、増悪するような結果に至ってしまいます。
しかし、それは評価をしっかりと行い鑑別を行なって疼痛の原因を知れば、治療方法についても選択肢が増え、十分に治療方法について吟味することができ、意味のない可動域練習やマッサージ、徒手療法は無くなります。
また、最大の利点は治療効果を発揮し、患者様やお客様を救うことができるようになる可能性も高くなるとと思います。
是非、今回の記事を参考に治療方法について理解していって下さい。
では、さっそく4つの運動器に由来する脳卒中後の肩関節について解説を進めます。
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運動器由来の脳卒中後の肩関節痛
※ここで示す運動器とは、筋肉や腱、靭帯、関節包、骨などを示します。
今回記載している項目は、
①痙性亢進による脳卒中後の肩関節の痛み
②重度運動麻痺による脳卒中後の肩関節の痛み
③関節可動域に伴う脳卒中後の肩関節の痛み
④亜脱臼による脳卒中後の肩関節の痛み
これらの4項目を文献を参考にさせて頂きながら
起因説明、評価方法、解決方法
を解説をしていきます。
①痙性亢進による脳卒中後の肩関節痛
起因説明
まず、脳卒中後の後遺症には、「運動麻痺」という後遺症があります。
中でもこの運動麻痺に伴い、「痙性」という症状が出現します。
痙性とは
簡単に説明すると運動経路の神経障害により、筋肉の張りを調節し協調的に動かすことが難しくなる症状
そして、次に必要な知識として「3つの関節の安定化機構」とういものがあります。
分類は下記表のようになっています。
この表からもわかるように人体は筋肉で
関節運動を行う、関節を安定させるようにしています。
表中の赤点線で囲んだ機能的安定が、今回解説している痙性との関与が強いと言えます。
しかし、脳卒中に伴う痙性が出現すると支えられている手足や体幹などの関節が適切な筋の張り(筋張)で調節されなくなります。
その結果・・・
関節内圧亢進に伴う疼痛、血管圧迫による筋内血流動体の不良(循環不良)による疼痛など、痙性亢進に伴う脳卒中後の肩関節の痛みを引き出す可能性があります。
弛緩性麻痺と痙性麻痺による肩関節痛分析
では・・・
・弛緩性麻痺では肩関節の疼痛ってどうなるの?
・むしろ、緩くて痛むのではないの?
って疑問を抱くと思います。
Vanらが219人の片麻痺患者様に対して脳卒中発症1年後の追跡調査を行なった研究報告があります。
この研究では弛緩性麻痺群と痙性麻痺群の2群分けて、弛緩性運動麻痺か痙性運動麻痺のどちらが、脳卒中後の肩関節の疼痛について関連があるかを比較をしています。
弛緩性麻痺が44名 痙性麻痺が175名を対象としています。
これらの内、弛緩性麻痺は8名(18%)で痙性麻痺では149名(85%)と痙性麻痺患者様で疼痛が発症する可能性が高くなっています。(Flaccid:弛緩性麻痺Total:18% Spastic:痙性麻痺Total:85%)
これらの、結果を病原に分けて内訳すると…
病 原 | Flaccid 弛緩性麻痺 | Spastic 痙性麻痺 |
Subluxations (SL:亜脱臼)由来 | Flaccid 18% | Spastic 58% |
Tendinitis (腱炎) 由来 | Flaccid 7% | Spastic30% |
Reflex sympathetic dystrophy(RSD:反射性交感神経性ジストロフィー) | Flaccid7% | Spastic27% |
SL+RSD由来 | Flaccid7% | Spastic25% |
この表から、痙性運動麻痺の場合亜脱臼は58%
そのため、痙性麻痺=亜脱臼を引き起こしやすいと理解をして下さい。
では、なんでこんな結果になるのか?
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痙性麻痺と肩関節亜脱臼の関係
痙性は、本来筋肉によって連結し支えられている手足や体幹などの関節が、適切な筋の張り(筋張)で調節されにくくなります。
また、痙性運動麻痺とは筋肉が過剰に収縮や反応しやすい傾向にあります。
間違えてはいけないポイント
痙性の出現や、筋緊張が亢進し「筋肉が収縮する=亜脱臼も整復される」と解釈することです。
痙性が亢進しても亜脱臼は整復されません。
むしろ広がる可能性が高いです。
これには、共同運動が強く関与します。
基本的には、運動麻痺において「共同運動」や「連合反応」という現象があります。
Check!!
痙性麻痺で「共同運動」が強く現れると、
肩関節は下の図のように
「肩関節内転、内旋方向」へ
強く引きつけられるようになり結果、肩峰と上腕骨頭上縁を引き離します。
その結果・・・
痙性運動麻痺は、「亜脱臼が出現しやすい」
という結論に至ります。
さらに、下の図のように肩関節周囲には多くの血管や神経が存在しており、ここまで説明させて頂いたように過剰に筋肉が収縮するような痙性が強く現れると、
・関節内部を圧迫し関節内圧亢進
・血管を圧迫し筋内血流動体の不良(循環不良)
・神経を圧迫し異常感覚
などを引き起こし疼痛を誘発やすくなります。
痙性麻痺に対しての対処方法
分離運動の促通を行うような関わりを行い
肩関節の内転、内旋からの離脱を図る
ように進めましょう。
特に、強い痙性を認める場合は
大胸筋、広背筋、大円筋、肩甲下筋の
セルフストレッチの考案
療法士の徒手的な介入
を行い除痛を図ることも必要になってくるかと思います。
②重度運動麻痺による脳卒中後の肩関節痛
トルコのArasらがAmerican journal of physical medicine & Rehabilitationの2004年に掲載しているRSDと麻痺による亜脱臼、筋緊張、肩関節可動域制限、麻痺の程度、視床痛について関連性があるか確認を行なった研究があります。
Arasによると脳卒中患者85人中の
54人(63.5%)
が肩の痛みを訴えていた。
その中でも肩の痛みを訴える患者様の中でも
有意に高い数値を重度の運動麻痺でP<0.001という値を示しており、重度運動麻痺が肩関節の疼痛と強い関係せいがあることを示しています。
この報告からもわかるように、重度運動麻痺が発症した場合は、肩関節の疼痛が発症しやすい傾向があることが理解できます。
重度運動麻痺
↓
患者様が疼痛
が発生する可能性が高いのかと疑問を抱くと思います。
Pongらの研究から重度運動麻痺と肩関節の痛みの関係について
Pongらは急性期脳卒中患者をBRSの程度によって麻痺の重症度を2群に分けて比較を行いさらに、筋骨格超音波検査によって原因の分析を行った結果が報告されています。
その研究結果では、年齢、性別、身長、体重、麻痺側、亜脱臼、上肢の痙縮程度、BRSでの重症度でそれぞれ比較を行なったが、2群間では年齢以外の有意差を示す結果ではなかった。
しかし、筋骨格超音波検査では重症の麻痺(BRS1〜3)の患者の場合は入院時に7名の軟部組織損傷が確認されたことに対して、リハビリテーション2週間後の検査では15人に軟部組織の損傷が起きていたことが報告されています。
これらの結果より上肢の運動麻痺が重症な急性期脳卒中患者では、リハビリテーションなどによる肩関節の運動により軟部組織損傷を起こしやすい傾向があることが報告されています。
これらより、重度運動麻痺の患者様の場合リハビリテーション等による肩関節への介入や、日常生活での麻痺手の管理や参加する方法について、粗雑な動作を行うことで軟部組織の損傷を起こしやすい可能性があります。
用語Check!!
上記3つ図引用:「ポイントマスター 解剖学用語、細胞・組織」
そして、今回の肩関節の疼痛と関係性が強い線維組織=結合組織として密性結合組織の腱や靭帯、骨膜のことを示しています。
そして、それらが脳卒中患者様の重度運動麻痺への疼痛に関連していることが考えられます。
そのため、重度の運動麻痺を呈する患者様の場合はより
日常生活での麻痺手の管理や参加方法について検討していく必要があります。
③関節可動域に伴う脳卒中後の肩関節痛
肩関節可動域制限と肩関節の疼痛において、2群間の比較を行なった研究で花山らが2016年に報告している研究があります。
花山らの研究:麻痺側肩関節痛を有する脳卒中片麻痺患者の超音波画像所見及び身体機能の特徴
その中でも、肩関節の可動域測定結果において、肩関節の屈曲と外旋運動においての可動域制限が有痛群と無痛群で有意差を示す結果となっています。
この研究結果では…
有痛群(肩関節屈曲制限として105±21.0、肩関節外旋は20.7±28.9)
無痛群(肩関節屈曲制限127.5±22.2、肩関節外旋は49.0±20.4)
有痛群で屈曲と外旋の2方向において可動域制限を認めると報告しています。
その他にも……
肩関節伸展と外転での可動域制限についても同時に比較を行われています。
しかし、肩関節伸展と外転では有意差を認めない結果となっています。
これらから考えると、肩関節屈曲と肩関節外旋運動における制限因子を特定して、介入することが必要であることが考えられます。
肩関節の屈曲を制限する因子は・・・
肩関節伸展方向へ引きつけられていることが考えられます。
そして、それらは肩関節伸展を主動作筋(伸展を行う筋肉)が短縮していて、肩関節屈曲運動に伴い伸張されることで疼痛が誘発されると考えられます。
肩関節の外旋を制限する因子とは・・・
肩関節内旋方向へ引きつけられていることが考えられます。
そして、それらは肩関節内旋を主動作筋(内旋を行う筋肉)が短縮していて、肩関節外旋運動に伴い伸張されることで疼痛が誘発されると考えられます。
そこから考えると、
関節可動域制限由来の疼痛と判断した場合は
肩関節の伸展筋と内旋筋に対しての介入が先決な判断となります。
肩関節の伸展と内旋を引き起こす筋肉として代表的な筋肉が広背筋と大円筋です。
この広背筋と大円筋は、肩関節の屈曲に応じて下記の図の赤矢印で示すようにこれらの筋肉が伸張されるために、引っ張りあがるようになります。
そうなることで、後回旋枝動脈と腋窩神経が圧迫されるような状態に陥ります。
その結果、肩関節に疼痛が現れるようになります。
そして、この肩関節の疼痛として代表的なのがQuadrilateral space syndrome(QLSまたはQLSS)です。
詳細を知りたい方は下記の画像をクリックすると原理と症状等について説明した記事へリンクします。
このページではこれらに対する対処方法についても記載されています。
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④亜脱臼による脳卒中後の肩関節痛
ここからは亜脱臼による脳卒中後の肩関節痛について記載します。
色々な文献で脳卒中後の亜脱臼と、肩関節の疼痛について評価している文献は多数あります。
花山ら
麻痺側肩関節痛を有する脳卒中片麻痺患者の超音波画像所見及び身体機能の特徴
Chengyuan Yangら
Meltem Arasら
Shoulder pain in Hemiplegia : Results from a National Rehabilitation Hospital in Turkey
しかし、これらの文献については脳卒中後の肩関節の亜脱臼のみに焦点をあて報告している内容ではなく、大雑把に有無などの判断にとどまり、このような文献は非常に多くあります。
今回脳卒中後の亜脱臼の評価方法について詳細に行なった文献として、Shih-Wei HungらによるRelationship between severity of shoulder subluxation and soft-tissue injury in hemiplegic stroke patientsで紹介されている内容です。
ここで紹介されている内容としてメジャーで肩峰から上腕骨頭部分の距離を測定して何㎝以上で疼痛を誘発するかを確認した文献があります。
測定方法について下記の測定方法を文献でも採用しており、この方法を参考にして下さい。
図引用:Relationship between severity of shoulder subluxation and soft-tissue injury in hemiplegic stroke patients
この方法で測定を行い2.25㎝以上の場合は、脳卒中後の肩関節においての亜脱臼が原因で疼痛を誘発しやすい傾向になります。
合わせて、この研究報告では上記に該当する肩関節の有痛者において解剖学的要因を、超音波(Ultrasound)を用いて・・・
上腕二頭筋(Biceps)
肩甲下筋(Subscapularis)
棘上筋(Supraspinatus)
棘下筋(Infraspinatus)
インピンジメント症候群(Impingement)
を対象として調査。
分類は
・腱炎(Tendonitis)
・亀裂または断裂(Tear or rupture)
が要因なのかを分類している。
発症する確率を
Affected side(患側:麻痺側)
Unaffected side(健側:非麻痺側)
で比較検定をMc Nemar testで行なっています。
用語Check!!
腱炎について曖昧な場合は下記の記事を確認しましょう!
この研究での腱炎の好発部位は
麻痺側二頭筋腱(76.9%)
と中でも一番高い確率を示しました。
また非麻痺側との比較においても
P<0.001と有意差を認める結果となっています。
このことから、麻痺の影響によって一番好発しやすいのは二頭筋腱となります。
次いで多いのが、
棘上筋腱(35.9%)
という結果となりました。
非麻痺側と比較において
P<0.001と有意差を認めてます。
このことから二頭筋同様、麻痺の影響によって発症することを示しています。
今回対象として前述したメジャーを用いた評価方法もありますが、どうしても肩関節の疼痛が強く疼痛の判断に迷う場合は、X線での評価が有効です。
なお、X線では下記の図を参考に距離を測定します。
図引用:Relationship between severity of shoulder subluxation and soft-tissue injury in hemiplegic stroke patients
二頭筋が要因となる場合は
vertical distance(VD)の距離が3.08㎝以上
棘上筋が要因となる場合は
horizontal distance(HD)が2.65㎝以上
この測定㎝について有効は、P<0.05と高い信頼性を示す結果となっています。
そのため二頭筋腱炎か棘上筋腱炎の区別を行う際、非常に有効な測定方法と言えます。