脳卒中:重度麻痺の上肢保護方法 スリングや三角巾の活用について

脳卒中 麻痺側上肢の管理方法について

本日もkarasapo.comに訪問して頂き本当に本当にありがとうございます。

今回は脳卒中で起こる重度の上肢麻痺の保護や管理に関連する記事です。

重度の上肢麻痺では、上肢をどのように保護したり管理することが適切あるか一度は検討をしたことがあると思います。

麻痺側上肢を保護するように三角巾を用いたり、スリングを使用したり、クッションを用いてみたりなど様々な方法で麻痺側上肢の位置や管理方法を検討することも少なくないと思います。

そこで重度麻痺の腕の保護や管理方法について、回復期病院で8年間脳卒中の患者様に関わらせて頂き経験から管理方法の内容について肩関節の解剖などの内容を含めてこれから解説をして行きます。

では、よろしくお願います。

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 スリングや三角巾の効果 

上肢の重度麻痺では亜脱臼が生じます

また、筋肉は弛緩過剰に緊張するなど筋性の問題が生じます。

これらに伴い循環動態の不均衡神経圧迫などを生じ

「むくみ」や「痛み」などの

二次的障害が発生します。

これらの問題に対して、三角巾やスリングでの管理、保護の観点では・・・

脳卒中ガイドライン(2009)では

肩関節亜脱臼の予防としてスリングを用いる効果については明らかではない(Ⅰa)と報告されており効果がないと非常にレベルの高い状態で報告されています。

しかしながら、適切なストラップを用いることで肩の痛みは回避できる(Ⅰb)と報告されています。

これらの解釈からは、効果は明らかでない

適切な使用を試みれば脳卒中後の肩関節の

疼痛を予防することや回避させることができる

と解釈できます。

 

では・・・

適切なスリングや三角巾の活用ってどんな方法になるの?

と考えることになると思います。

ここからはスリングや三角巾を用いた適切な麻痺側上肢の管理方法保護方法について解説を論文等を交えて解説を行ないます。

 三角巾やスリングでの麻痺側上肢管理の危険性

前項でも説明させて頂いたように、スリングや三角巾を用いてることは決して無駄ではないです。

しかし、縛ったり、吊るしたりなど不快的な刺激が入りやすい道具になるため適切に使用を試みる必要があります。

ここでは、三角巾やスリングを持ちた麻痺側上肢の管理や保護に関する危険性について十分説明を行いながら、その適切な使用方法とその適応について解説をします。

①QLSSについて

まずはじめにですが、スリングや三角巾での固定においては肩関節は内旋、内転します。

このポジションによりまず懸念されるのがQLSの障害です。

QOLの構造についてこちらをクリック!

肩関節の痛み OLS QLSSについて

これらのリンク先でも解説しているように、三角巾やスリングなどを用いて肩関節を固定すると・・・

関節拘縮や肩関節内旋、内転させることで肩関節に存在するQLSが閉塞し血流障害を引き起こしQLSSなどに伴う疼痛を引き起こす現象が確認されています。

実際の動画は「QLSの絞扼エコー動画」にリンクして確認をして下さい。

QLSの絞扼エコー動画

これらからもわかるように、肩関節の内転、内旋固定はあまりよくないことがわかると思います。

②Obligate translation

次に起こりやすい二次的障害は関節の拘縮です。

中でも、私は肩関節において

Obligate translationを引き起こす可能性がある

考えています。

Obligate translationはこちらをクリック!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この現象については・・・

「Obligate translationはこちらをクリック!」

でも解説させて頂いている通り、肩関節の長時間の内転、内旋固定では上腕骨頭が肩関節の後方関節包と癒着しその他にも、筋膜などの癒着や短縮を招き上腕骨頭いわゆる肩甲上腕関節の運動不良が引き起こされ疼痛を誘発してしまう可能性があります。

ここまで記載させて頂いた通り、肩関節の三角巾やスリングを用いた固定や管理は疼痛を誘発するような障害が解剖学レベルで起きてしまうということです。

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他にも、肘を曲げた状態で固定することで

二頭筋の短縮(力こぶ部分の筋肉が縮む)や萎縮

を招き肩関節がより緩くなり

亜脱臼の増悪二頭筋腱炎

などを招く危険性もあります。

また、回旋筋腱板の萎縮や短縮により二頭筋と同様の症状を招く可能性があります。

この内容は下記に論文を紹介させて頂きますので、

興味があれば是非参考にして下さい。

1:Management of hemiplegic shoulder pain

Management of hemiplegic shoulder pain

2:MRI findings in painful post-stroke shoulder

MRI findings in painful post-stroke shoulder

 

 

 

 

 

ここまでの解説で三角巾やスリングなどにより

麻痺側上肢の管理においては、

安易に「はい!スリング!」

などと提供すると、後にとんでもない障害が誘発される危険性について理解できたと思います。

そして、もし使用している場合

これらの障害について

徒手的介入を行う自主練習などの提供を行う

ことが必要であることは理解できたと思います。

ここからは、スリングや三角巾での固定の適応を

身体機能の評価から

該当する場合と、該当しない場合

の解説をします。

 三角巾やスリングの適応

三角巾の適応

ここまでで説明した通り、安易にスリングや三角巾で麻痺側上肢を管理することはあまり良くないことが理解できた上で次に三角巾やスリングの適応について解説をしていきます。

まず、時間は短時間であることが前提です。私が在籍していた回復期病院でも三角巾やスリングでの固定は冒頭の二次的障害の危険性から基本的には行わないようにしていました。

しかし、どうしても固定する場合はこれから説明する条件で行うようにしていました。

条件1:歩行時や立位時間が長い場合

重度の上肢麻痺の場合、理学療法などによる歩行練習時間では末梢部分の血流動態が悪く腕振りなどの動作が加わることで遠心力によって末梢へ血流や水分が偏りむくみの原因となり、そのむくみの影響によって軟部組織などが線維化し関節拘縮の増悪や筋力の低下、関節内圧の亢進による疼痛の増悪などを懸念し装着するようにしていました。また、肩関節の強い疼痛を訴えられる患者様に限っては数日提供し、その数日間は前述したような二次的障害に対して入念に配慮して介入をし肩関節の疼痛緩和を行なっておりました。

ここでの説明で重度の上肢麻痺についてですが下記内容になります。

麻痺の程度が

BRS上肢1や2、SIASにて上肢1の状態

または・・・

強い肩の痛み(安静時、動作時共に痛い状態)

これらに該当する場合は、スリングや三角巾を用いた方法で管理や保護する必要があると思われます。

この上記以外の場合は基本的にスリングや三角巾を用いて麻痺側上肢の管理や保護は行わない方がいいと思われます。

また、BRSやSIASの数値の根拠は、

連合反応の出現です。

※SIASの評価方法はこちらをクリック(無料PDF有り)

条件2:肩関節の強い疼痛を訴えられる場合

肩関節の疼痛を強く訴えられる場合は、すでに肩関節内で筋や腱に炎症が起きている可能性があります。

その場合は、スリングや三角巾での固定を行い修復されるのを待ちます。

その間は愛護的に疼痛が生じない程度に徒手的介入を行うようにしましょう。

でなければ、次は交感神経が過剰に機能しCRPSへ移行しさらに長期間麻痺側上肢に対してのトレーニングを行うことができない状態となってしまいます。

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 スリングや三角巾を外す時期

麻痺の程度がBRS3以上SIAS2以上外す時期になります。

これは前述したように連合反応により判断をしています。

連合反応が出現することで上腕骨が肩甲骨に引き寄せられるようになり亜脱臼が整復される場合があります。

この状態に該当する場合は外しながら肩関節の状態を確認してスリングや三角巾を外す時期の検討段階になります。

また、海外の論文においてもスリングや三角巾での固定はあまりいいとされていません。

論文紹介

However, a number of authors have reported that slings may hold the limb in a poor position that is likely to cause soft tissue contracture and have an adverse effect on symmetry, balance, and body image.

by:Management of shoulder pain in patients with stroke

”スリングが肢を軟組織拘縮を引き起こし、対称性、バランス、および身体イメージに悪影響を及ぼす可能性がある乏しい位置に保持する可能性があると報告している”

他にも・・・

1:Shoulder subluxation in hemiplegia:effects of three different supports.Arch phys med rehabil 72:582-586

2:A motor learning programme for stroke.(Butter worth-heinemann medical Books ,London),2nd Ed.pp106-107

などでも同様の見解を示すような内容が記載されています。

これらから、スリングや三角巾で麻痺側上肢を固定や保護、管理することについてあまりいい意識が持たれていません。

そのため、三角巾やスリングに依存させてしまうような介入は極力控えて進めることが重要であるとここまで解説を進めて改めて感じます。

三角巾固定
三角巾固定 

左上図引用:TSSP.JP

左下図引用:Furlove

また、現在は従来の三角巾やスリングでの管理では左上の写真に示すように首にかけるように固定しています。

 

 

スリング例
Varney Brace 

しかし、現在海外での麻痺側上肢管理は左下の写真で示すように対側の腋窩部分を支点とするように固定するスリングが主流となっています。

 

 

 

 

また、このような装具においては、「Varney Brace」と言われ脳卒中発症後の肩関節の疼痛について、検証されある一定の効果を見出すことができたとされています。

by:The use of the Varney brace for subluxating shoulders in stroke and upper motor neuron injuries.

 おまけ

ここまでは、本邦でも良く用いられる脳卒中に伴う重度上肢麻痺についての管理方法について、スリングと三角巾での管理と保護について解説を行なってきました。

ここで一つテーピングについておすすめな情報の提供をします。

海外では、テーピング(taping)が主流となりつつあり、実際にSamuel Merritt Universityで検証されたテーピング方法について動画を貼り付けて起きますので、今後参考にして頂きながら介入して本邦においても検討していき必要があると思われます。

効果検証論文

Effectiveness of the California Tri-Pull Taping Method for Shoulder Subluxation Poststroke: A Single-Subject ABA Design

※注意:テーピングではアレルギーなどのパッチテストが必要であるため、介入を行う場合は必ずDrに確認を行い進める必要があります。

 

 まとめ

本日も最後までご覧いただきありがとうございました。

脳卒中後の重度の上肢麻痺についての管理、保護方法について三角巾やスリングを用いるべきかここまで解説を行いました。

三角巾やスリングの固定を否定する訳ではありませんが、必要に応じて使用していくことも大切です。

しかし、使用すると今回説明させて頂いたような危険性が肩関節に生じることを理解した上で使用することが大切です。

そして、使用している場合はこれらの問題に対して予防的に介入を欠かさず行い対応していくことが必要です。

本日も、ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。

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