目的:下肢機能においては、歩行と筋活動をSwpとStpとに分類しさらにそれらを細分化して詳細に筋活動の分析を行いどの機能に障害や機能低下があるかを把握している。しかし、上肢機能においては分類の定義などもなくどの部分が障害を受けいているや、機能低下しているなどの分析についても各々見解が異なることも少なくありません。そこで今回、文献を利用して、肩関節の屈曲運動から角度に合わせて上肢に関与する筋活動についての分析と新たに、肩関節の運動における運動分類を作成し系統的レビューを参考に有力な情報をまとめることにしました。
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はじめに
肩関節に関与する筋としては、肩甲挙筋、僧帽筋、大小菱形筋、小円筋、大円筋、棘上筋、棘下筋、三角筋(前部、中部、後部)、広背筋を主として分析を今回は行います。そして、今回分析する45〜90°の屈曲範囲をSetting phaseなどの例もあるが角度等については明確に定義されていないためFlexion Initial Phase FN(forty-Ninety)として定義し分析を行います。
文献数については、有力な内容について随時増加させてより有効な情報を提供します。
また、必要に応じて関節運動についても解説をして行きます。
では、さっそく肩関節の筋活動についての分析結果を報告して行きます。
1)運動肢位の変化と肩関節周囲筋の筋活動について
この研究では肩関節における通常の屈曲動作と、肩甲骨を挙上(シュラグサインを健常者で見立て実施)した状態での屈曲動作での比較を筋電図を使用して行なっています。
対象は健常者で行い、対象の筋肉としては三角筋前部、中部、後部、棘下筋、棘上筋、僧帽筋上部、中部、下部を対象として分析を行なっている。また、これらに対して肩甲下筋を加えた分析を行われている。中でも屈曲角度としては様々であるも文献中の図5が上記の内容での報告であり屈曲0から約90°までの筋電図による分析をされている。この図から45〜90°に至る過程として肩甲帯を挙上していない状態での筋電図を拝見させて頂くと、僧帽筋の下部線維においては、座位での約60°屈曲付近で筋活動の増加を認めます。また約90°付近では棘上筋の筋活動は漸減するも棘下筋の筋活動は斬増しています。また、以前解説させて頂いた0〜45°屈曲運動では三角筋の中でも前部線維が主となっていましたが、約90°付近では三角筋中部や後部でも筋活動を認める状態となっています。
♦Memo
この文献においては肩関節周囲の筋活動について肩における疾患や、姿勢の変化(座位や側臥位)による筋活動分析を福島先生がされており、非常に臨床での思い込みを修正して、肩関節における筋活動について分析されており勉強になる文献であり是非臨床での参考になる文献でした。
図引用:運動肢位の変化と肩関節周囲筋の筋活動について 福島ら
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2)肩関節挙上運動の筋電図学的検索
この朝長らによる研究については、0〜45°の肩関節屈曲運動の記事についても引用しましたが、今回の45〜90°においても是非参考となるデータがあるため引用させて頂きました。
研究方法は、健康な医学部男子学生を対象として約20肩を分析した筋活動における分析を錘を用いた場合と、錘を用いない場合での比較を行っています。
この研究においては図からもわかるように45°付近から大胸筋と棘上筋と三角筋中部線維の収縮を認め始めます。
そして、広背筋と大円筋そして三角筋後部線維の筋収縮を認めるように角度によって筋活動を認めるように推移して行きます。
図引用:肩関節挙上運動の筋電図学的検索
※図については、一部改変をさせて頂き、より角度による変化をわかりやすくしています。
図の説明は、青丸が屈曲約30°付近で示しており、赤丸が屈曲約45°付近。そして、緑丸が屈曲約60°付近となります。この図で示すように屈曲約30°付近からの変化として今回対象とされている筋肉の中でも前述した大胸筋、棘上筋、三角筋中部については赤丸のように変化していき、次いで大円筋、広背筋、三角筋後部への変化していきます。また、この図からもわかるように僧帽筋下部と三角筋前部線維については、他の筋肉比較して屈曲角度に比例して増加していきます。このことについては、この研究でも述べられている通り肩関節は複合関節であり、胸鎖関節、肩鎖関節、肩甲胸郭関節、肩甲上腕関節から構成されており主に、肩甲上腕関節は三角筋で可動しているものの、肩甲胸郭関節については僧帽筋の筋活動を認めており肩甲上腕リズムの開始と共にそれらが協調的に可動することによって肩関節の屈曲運動を可能としている。また、屈曲時に起こる肩甲骨の回転と外転時に起こる肩甲骨の回転では肩甲骨の回転している中心軸が異なります。そのため、より三角筋と僧帽筋の下部が協調的に活動し肩甲骨の回転動作を可能としていることが考えられます。
このことを裏付けるように、乾哲也先生が「セラピストのための肩甲骨キネマティクス」でも掲載されているように、図を一部改変して肩甲骨の動きに合わせた中心軸をわかりやすく赤丸で示すとその部分を支点として三角筋と僧帽筋で均衡をはかり肩甲骨の協調性に関与していることがより明確に分かります。
図引用:「セラピストのための肩甲骨キネマティクス」 乾 哲也
3)拘縮肩へのアプローチに対する理論的背景
この論文においては福島先生らが肩関節の拘縮について筋活動を用いて解説を行っている。その中でも、肩甲上腕関節の安定化機能についての解説をしている。中でも下記に紹介するように肩関節屈曲動作において三角筋、棘上筋、棘下筋の筋電図波形において、三角筋中部線維、棘下筋での筋活動を45〜90°で認めます。また、棘上筋は屈曲動作において約30°を最大の筋活動として徐々に漸減していくことも特徴として捉えることができます。これらは、より肩関節の安定化機能が働いていることが考えられます。
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4)肩関節水平屈曲角度変化が大胸筋の筋電図積分値相対値に及ぼす影響
この楠らの研究では大胸筋の鎖骨部と胸骨部を分けて水平屈曲を0〜90°まで行った際の、筋電図による分析により筋活動を見ています。
ここで水平屈曲90°は肩関節屈曲90°に対応しており今回紹介させて頂いております。
肩関節が水平屈曲90°に至ると、大胸筋の鎖骨部線維が水平屈曲0〜60°と比較して80〜90°で筋活動に有意差を認めており肩関節の屈曲90°においても大胸筋の鎖骨部線維が重要であることがわかります。しかし、大胸筋の胸骨部線維においては、どの角度においても有意な筋活動を認めることはなく経過しており、より大胸筋鎖骨部線維の重要性が高いことがわかります。
※左の数値が大胸筋鎖骨部線維の水平屈曲における数値、右の数値が大胸筋胸骨部線維における数値
図引用:肩関節水平屈曲角度変化が大胸筋の筋電図積分値相対値に及ぼす影響
5)上肢挙上に伴う体幹機能
早田らはの研究では、上肢の側方挙上動作と、両手での挙上動作に伴う体幹の筋活動分析を行っている。対象の筋としては多裂筋、最長筋、腸肋筋を対象としている。ここで取り上げるのは両手動作での挙上動作です。
両手での挙上動作では多裂筋が特徴的な筋活動を行うことが報告されています。それぞれの筋肉が活動していることを認めるようになっていますが、一番の筋活動と60から90°に欠けて斬増するのがその中でも多裂筋という結果になっています。
図引用:上肢挙上に伴う体幹機能
6)肩甲上腕リズムの臨床応用を考える
この研究の中では、座位と背臥位の姿勢変化に伴う筋活動について、筋電図を用いて分析を行っている。
対象は健常男性6名で両側の肩12肩を対象している。調査対象の筋肉は僧帽筋上部線維、三角筋前部線維、前鋸筋下部線維、僧帽筋下部線維に設定。
この研究では今回の45からの変化について記載はないが、60〜90°で今回対象としており今回紹介をさせて頂きます。
それぞれの筋は全て活動を認める結果となっています。
座位では、屈曲60°以降から僧帽筋、三角筋、前鋸筋が屈曲角度に比例して筋活動を認めるものの、僧帽筋下部線維は屈曲60°まで筋活動が増加し、その後屈曲120°まで一定の筋活動となり150°まで屈曲することでさらに筋活動が増加する傾向となっています。
背臥位では、座位とは対象的にこれらの4つの筋肉は、屈曲30°をピークとして、屈曲角度と反比例してどんどんと筋活動は低下していきます。
ここから、治療方法の戦略として言えることは座位で行うか背臥位で行うかで、筋肉に対して与える影響がことなるため、単に背臥位で屈曲90°できたからと言ってもそれは三角筋は座位と同様に作用していない可能性があることです。こんな風にこの研究の結果については着目していただけると本当に意味がある治療を時間を無駄にせずに行うことができるのかと思います。
図引用:肩甲上腕リズムの臨床応用を考える
7)The Effect of Shoulder Flexion Angles on the Recruitment of Upper-extremity Muscles during Isometric Contraction
この研究では肩関節周囲の筋肉ではなく、二頭筋(BB long head)と橈側手根屈筋(FCR)を肩関節の屈曲角度に合わせてどのように筋活動が変化するかを表面筋電図を用いて観察している。尚、分析角度としては30、45、60、75、90°肩関節屈曲で分析している。対象者は健常男性で13例に設定。
二頭筋については、肩関節屈曲を開始して30から75°までは筋活動の増加を認めるが、90°屈曲に至ると筋活動は減少します。
橈側手根屈筋は屈曲60°まで筋活動の増加を可能として、一度75°で筋活動の減少を認めるものの、再度屈曲90°で筋活動の増加を認める結果となります。
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まとめ
今回は7本の文献を参考に肩関節の屈曲45〜90°にかけての筋活動についての分析結果をレビューして見ました。なかなか角度別には分析されているものが少ないことや、著者の重複などを考慮してこの本数となりました。
まず結果について簡単に総論していきます。
肩関節屈曲45〜90°の分析
座位編では
漸増するのは・・・・
僧帽筋、三角筋前部、中部、後部、大胸筋、大円筋、棘上筋、棘下筋、前鋸筋、二頭筋とこれらの筋肉が45〜90°にかけて関与して行くこととなりました。中でも三角筋については0〜45°は前部線維が中心となっていましたが、中部、後部の参加を認めるようになります。また、屈曲運動を臨床で実施した際に内転方向へ屈曲運動を患者様に提示した際に引きつけられることがあるが、それは大胸筋の胸骨線維部分の関与であり、鎖骨部線維については屈曲運動でも特に保持などといった肩関節の安定化機構については重要な役割を果たしていることが今回の結果からわかります。
そして、脳卒中の肩関節において最も誤用と共に併発する二頭筋腱炎ですが、これは肩関節屈曲75°の状態での努力的な筋活動との関連も今回の結果から伺うことができます。
体幹の筋活動としては、多裂筋と最長筋の腰椎部分での漸増を認める結果となりました。
漸減するのは・・・・
現在の論文をレビューした結果からは、棘上筋については2本が今回のテーマでもある45〜90°肩関節屈曲運動にあまり関与していない可能性を見出す結果となっています。
背臥位編では・・・・
文献6)で示した「肩甲上腕リズムの臨床応用を考える」において、僧帽筋上部、下部、三角筋前部、前鋸筋下部線維は肩関節屈曲30°を最大の筋活動とし背臥位では座位と異なり、筋活動は漸減するような結果となりました。