浮腫 圧迫を加えすぎは逆効果
今回は参考文献をもとに浮腫について説明して行きます。
なんでこの記事を書くかの理由は、治療方法が個々によって曖昧であり、ロジックに基づいた治療介入が必要であるためです。また、臨床現場で浮腫の治療において強烈な押圧や指圧を行い誤療している現場を多々見かけるために今回の記事を書きました。ぜひ、臨床家の皆さんの中に浮腫治療で困っている人がいれば参考にまた、困っている患者さんがいれば、今回の記事を参考に治療を試みて下さい。
浮腫の定義
組織液またはリンパ液が何らかの原因により細胞内・細胞間質、または体腔内に貯留する状態を水症と呼び、水症のうち組織間隙のものを水腫(間質性水腫ともいい、局所的水腫にみられる)、体腔内のものを腔水症、皮下組織のものを浮腫(全身浮腫)と呼び分けているとされています。
この定義については、外観からの判断が難しいことから現在は、両種類ともに混合している状態で浮腫として取り扱われることが多いです。
そのため、現在の浮腫と定義としては、組織間質(Interstitial space)に生理的な代償能力を超えて過剰な水分貯留をした状態(大橋俊夫 2007)と捉えられていることが多いです。
Keyword:間質
間質とは実質以外の部分のことを示しています。臓器以外で臓器を構成するもののことを示しており、例えば結合組織などのことを示しており、それは血管や神経、膠原線維や線維芽細胞のことを示しています。
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浮腫の種類
浮腫には圧痕性浮腫と非圧痕性浮腫の2種類が存在します。それぞれの浮腫の判断について下記の図を参考にし、浮腫の評価や診断を行うようにして下さい。
浮腫の発生機序
浮腫の発生機序は、5つのPを参考にされている。
Pressure:静脈圧
Protein:タンパク質
Permeability:透過性
Paresis:麻痺
Pendency:下垂
のこれら5つのうち一つが病気や環境などで生じることにより発生するとされています。
しかし、Paresis(麻痺)や老化などに伴う器質的な変化や退化に対しての明確な断言をされている報告は見受けられないのが現状です。
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浮腫の要因別分類
まず浮腫については全身に波及して現れる場合と、局所に部分的に現れる場合との2種類があるとされています。前者の説明では一般的には全身性浮腫として説明されており、後者の場合は局所性浮腫として説明されていることが多いです。これら全身性と局所性の浮腫は原因疾患によって現れ方が異なります。それぞれ、発症する疾患はことなるため、浮腫についてはしっかり検査を行いながら原因疾患を見つけ出すことが必要です。
全身性浮腫
1:腎性浮腫(急性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群)
2:心性浮腫(うっ血性心不全)、肝性浮腫(肝硬変)
3:内分泌性浮腫(甲状腺機能低下症及び亢進症)
4:栄養障害性浮腫(タンパク漏出性胃腸症)
5:薬剤性浮腫(グリチルリチン、経口避妊薬)
6:突発性浮腫:クインケ浮腫(原因疾患なし)
局所性浮腫
1:皮膚感染症浮腫(発赤、熱感、疼痛に伴う丹毒や蜂窩織炎による浮腫、水虫(足白癬)からの二次的感染(傷口からの細菌の侵入))
2:静脈性浮腫(上下静脈症候群、深部静脈血栓症、静脈瘤、四肢静脈血栓症、静脈弁不全)
3:リンパ性浮腫(先天性家族性リンパ浮腫、がん転移、がん治療によるリンパ節切除後、フィラリア症、股関節や膝関節)
4:炎症性浮腫(血管炎、アレルギー(蕁麻疹、食物、薬剤性)、炎症)
5:血管神経性浮腫(遺伝性血管神経性浮腫、クインケ浮腫)
6:廃用性浮腫:(脳卒中後、変形性膝関節症後、下肢の外傷や術後、関節リウマチあるいは加齢に伴う筋力低下によって発症する)
これらの中でも廃用性浮腫は、最も多く臨床現場で見ることがある浮腫です。
このように全身性と局所性の浮腫については疾患によって分けられています。
浮腫による悪影響
文献1よりこのように報告されています。
Prolonged swelling has an impact on joint range of motion, soft tissue mobility, quality of scar tissue formation, function, strength, and esthetics of the hand.
「長時間の浮腫については、関節の動く範囲、柔らかい組織の移動性や柔軟性、瘢痕組織形成の質的問題や機能や強さに問題を与え、美観に浮いてもむくんだ手は良くない」
とされています。
このように言われており浮腫に対しては、機能的な損失を伴った外傷や脳卒中、術後管理ではとても重要とされています。
しかし、この浮腫に対してむくみがあるからといって、むやみに押し込むことはリンパ管に対しての負荷が強烈に加わり、回復をさらに阻害してしまうことが知られています。
浮腫の間違った徒手的介入
基本的に浮腫は、30mmHgでの圧力で介入することが進められています。しかし、強く押しすぎている人や市販の弾性ストッキングや包帯などでかなり強く押し込むように浮腫に対して、介入や治療をしている人が多いと思います。
1:浮腫への基本治療圧力=30mmHg
参考文献
1)Casley-Smith J.R., Casley-Smith J.R. 5th ed. The Lymphoedema Association of Australia; Malvern: 1997. Modern Treatment of Lymphoedema.
2:リンパ管の損傷を起こす可能性がある
=60mmHg
参考文献
1)Casley-Smith J.R., Casley-Smith J.R. 5th ed. The Lymphoedema Association of Australia; Malvern: 1997. Modern Treatment of Lymphoedema.
2)Miller G.E., Seale J. Lymphatic clearance during compressive loading. Lymphology. 1981;14:161–166.
3:単一細胞の毛細リンパ管を完全に損傷する
=75mmHg
参考文献
1)Miller G.E., Seale J. Lymphatic clearance during compressive loading. Lymphology. 1981;14:161–166.
このようにmmHg(ミリハーゲ)の単位で浮腫に対しての適応的な圧力については検討されており、徒手的介入に伴う圧力がこれらの問題を引き起こす可能性があり、決して単純にむくみがあるからといって、むやみに押し込む動作は良くないことを念頭において、治療方法を選択するなどの介入を進める必要があることを十分に理解して介入を進める必要があると思います。
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浮腫に対しての介入方法
基本的には下記の内容が系統的なレビューにおいては分析されています。
1:Manual edema mobilization (MEM)
2:manual lymph drainage(MLD)
3:高電圧パルス超音波(HVPC)
4:寒冷療法
5:神経筋刺激(NMS)
6:装具による固定
7:圧迫を含む自他動運動
上記項目に併用して下記の内容を実施している。
1:キネシオロジー・テーピング
2:マッサージ(逆行性および間欠性)
3:正常機能使用
4:ストリングラッピング
5:アイソトナー手袋
6:間欠的空気圧
これらの方法が一般的に用いられています。
海外では、MEMやMLDが主流で用いられています。
今回はMEM等については詳しく解説はしませんが、治療効果としては認められています。
MEMの治療効果紹介
Evidence on edema techniques after trauma and surgery
MEM + conventional therapy vs conventional therapy Both groups had a statistically significant difference in edema reduction between inclusion in the study and penultimate follow-up (9 weeks); however, there was no statistically significant difference in any outcomes between the groups. In light of this, therefore, authors conclude that using conventional therapy with or without the addition of MEM is satisfactory in treating edema; however, as the MEM group had 20% fewer sessions (not statistically significant P = .13) than the control group who had conventional therapy alone, this is recommended for subacute edema. The interventions were well described with the use of 2 independent therapists performing the treatment and 2 blinded assessors conducting the outcome measures.
なお、MEMには上記のように報告されています。
MEM +従来の浮腫に対する治療vs従来の浮腫に対する治療方法で浮腫についての比較を行った結果、統計学的には有意差をそれぞれの群で介入前後に認めており、両内容とも浮腫に対しては有効的である。また時間的問題について前者のMEM +従来の浮腫の方法で治療を受けた群の方がより短期間での効果を得ることできるとされています。
しかし、治療法としては十分な確立はされていませんが、前述した浮腫に対しての介入の中では最も有効とされています。また、方法はそれぞれ報告されています。
1:遠位から近位方向へしっかりしたマッサージを行う
参考文献:Flowers K.R. String wrapping versus massage for reducing digital volume. Phys Ther. 1988;68:57–59
2:遠位から近位方向へ軽い表面マッサージを行う
参考文献:Haren K., Backman C., Wilberg M. Effect of manual lymph drainage as described by Vodder on oedema of the hand after fracture of the distal radius: A prospective clinical trial. Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg. 2000;34:367–372.
3:遠位から近位方向へ軽いマッサージをUの字を描きながら実施する。
参考文献:Knygsand-Roenhoej K., Maribo T. A randomized clinical controlled study comparing the effect of modified manual edema mobilisation treatment with traditional edema technique in patients with a fracture of the distal radius. J Hand Ther. 2011;24:184–194.
ただし、持続効果は、前述した治療方法のどの方法も十分な持続効果とは言い難いと報告されています。そのため、今後はこれらの治療方法の組み合わせ等を現疾患と照らし合わせて介入を進める必要があることも合わせて指摘されています。
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まとめ
浮腫の要因は細胞間質に体液が貯留して起こる現象であり、その発生機序や発生病原は様々である。また、加えて発生場所についても全身性および局所性の2種類が存在する。これらの改善方法は、逆行性マッサージが存在するが強烈なマッサージについては毛細リンパ管を傷づけることになり、浮腫の改善は困難となる。薬物については抗ヒスタミン薬での改善が可能である患者様がいて、かかりつけ医に相談することで改善を認めることがある。徒手的な治療方法としては、MEMが現在は有効でありさらに、他の方法と組み合わせルコとで細胞間質の拡大を起こしリンパ管への循環動態が改善する可能性がある。
参考文献
1:Effectiveness of edema management techniques for subacute hand edema: A systematic review Leanne K.Miller J Hand Ther.2017 Oct-Dec;30(4):432-446
2:浮腫の基礎 小野部 純 理学療法の歩み21巻1号 2010年1月
3:後藤稠編:最新医学大事典第 2 版.東京:医歯薬出版; 1996.
4:Knygsand-Roenhoej K., Maribo T. A randomized clinical controlled study comparing the effect of modified manual edema mobilisation treatment with traditional edema technique in patients with a fracture of the distal radius. J Hand Ther. 2011;24:184–194.