8分で読める脊髄性運動失調 概論と運動療法について

本日も訪問して頂きありがとうございます。

今回は脊髄性運動失調についての解説を行います。

脊髄性運動失調は、「素人でもわかる!失調の分類について(大脳性、脊髄性、迷路性、末梢性)」や「5分で読める運動失調について(迷路性、脊髄性、大脳性、その他の失調について)」でも解説したように、感覚障害を顕著に認める場合が多く、その中でも深部感覚障害が併発していることが多い後遺症の一つです。

より深く深部感覚を理解して頂き、脊髄性運動失調についてご理解をして頂きたいため、まずは深部感覚障害について簡単に解説をします。

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深部感覚 Deep Sensation(Sensa)とは

種類としては、1:関節感覚、2:振動覚、3:深部痛の3種類に区別されています。

 1:関節感覚  

英語表記では、Joint Sensation (Sense,Sensibility)と言います。この感覚は関節や筋肉で受け取るような感覚のことを広い意味で指しており、主に2種類存在します。

一つ目は位置感覚position sense、二つ目は受動運動感覚Sense of Passive Movementです。

位置感覚とは

関節が動き四肢や指などが、どの位置にあるかを判別する感覚のことです。

受動運動感覚とは

どういう方向に関節が動いたかが、わかる感覚のことです。

これらの感覚は脊髄損傷の場合、脊髄前索か脊髄後索の障害かを精査し判断して、治療方法の検討を行い方針を決めていく必要があり非常に重要な感覚になります。

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 2:振動覚  

音叉(基本的に128Hz、ときに256Hzのもの)を用いて骨が表面に出ている、くるぶし部分や鎖骨などに振動を起こした状態の音叉をあて振動を感じるか評価します。

通常、人は動きに伴い振動を感じ動作を遂行しています。

歩いている時は地面からの床反力に伴い、振動や揺れを感じて無意識に筋肉の収縮や弛緩を行い姿勢の微調節をしています。

しかし、仮に振動を感じない場合は、歩いている際に受ける床反力や路面の形状や状況によって足底からの振動を感じにくくなり、無意識で行うような筋肉の収縮と弛緩(緩める)の調節を行うことができず過度に力が入るまたは、緩みすぎてぎこちない関節運動となってしまいます。

この感覚は脊髄損傷や脳卒中においても、振動覚の経路を脊髄から脳まで明らかにされており、治療方法を検討するのに非常に有意義な検査の一つです。

 3:深部痛  

徒手的に検査者が患者さまの筋肉をつかみむまたは伸張し痛みの程度を評価します。

正常と比較して軽度な変化であれば、問題としなくてもいいとされています。

しかし、明らかに疼痛を伴う強度について反応することがなければそれは脊髄癆という脊髄の疾患を疑う評価となり、逆に消失しているような傾向を認める場合はアパティー徴候と言います。また、神経炎などではかえって過敏になることが多いです。

 これら3種類のように、深部感覚とは関節の位置や筋肉の収縮や弛緩程度に関して深く関わっており、視覚や聴覚などに伴い人間は体を動かしその動きに伴う、体のバランス調節などを行うので、深部感覚は人間の関節運動にとってとても重要な役割を担っていると言えるでしょう。

何らかの影響によって損傷し、脊髄神経による感覚障害を伴った場合に出現することが多い後遺症です。

具体的な症状は、前述したように深部感覚障害を著名に認めることを特徴としており、起き上がりや歩行時に過度に力を入れて動作を行うまたは、必要なところの関節運動がうまく調節することができず

そのため、そのような症状を認める患者は十分な感覚検査を行う必要性があります。

 

脊髄性運動失調の判断の仕方

まず疾患が脊髄に由来する疾患であることです。

基本的に脳で起きた病気では脊髄性運動失調は現れません。

次に、深部感覚(位置覚、運動覚や振動覚)の検査を行い、深部感覚機能障害を認めるか認めないかを検査します。

深部感覚機能障害を認める場合は次に、Romberg徴候が陽性であるかを検査します。

そして、温痛覚についての検査を行います。

そこで、温痛覚の感覚機能障害を認めない場合は、脊髄後索性の機能障害が受けており脊髄性運動失調と判断をします。

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脊髄性運動失調の運動療法

  運動療法と運動学習理論  

ここまで前述した内容で深部感覚が脊髄性運動失調に関してはとても重要であることがもう理解できたと思います。

では、この脊髄性運動失調の運動療法としてどのように実施すると良いかをここから解説をします。

脊髄性運動失調の患者様にとっては、自分の動いている感覚がわからないまたは、わかりずらいため「ここがこうなっています」などの口頭での修正をかけるように伝えても、全くと言って良いほどわかりません。

 だって、関節が動いていることが深部感覚障害によってわからなくなっているのですから。

 そのため、重要となるのがその深部感覚障害の代替えとなる機能を利用して段階的に運動療法等を進める必要があります。

まず、初めに視覚的情報を利用することです。

これは、鏡などを利用して自分の体や足を見ながら動作を行うことです。

例えば、歩くことでは歩く方向に鏡をセットし、鏡を見ながら自分が一体どんな動きをしているかを客観的に捉えて頂く必要があります。

そこで、今までと同じように歩けていないことについてどこが、どうなっているからこんな歩きになっているかを気づいて頂き、そこから様々な動きを行いながら、関節運動について理解をして頂きます。

そうすることでこれは異常な動きをしている。

これは、良い感じで動いている。

などの判断ができるようになって行きます。

しかし、これは感覚障害が重度の症状になればなるほど必要ですので、その症例にあった運動学習量を設定して行きましょう。

 また、何にもない状態で歩くことや起き上がることができない症例に対して、いきなり後方から介助を行いながらそれぞれの動作を行うと助けてもらってできている動作の学習となり、いざ助けをなくすとできない状態に陥ってしまいます。

 そのため、環境などによる代償を行い難易度の設定を行いながら、症例を助ける介助頻度や量を少なくしていく必要があることと、運動学習上必要なドーパミンの放出に関しては、症例との目標共有を行いそれらができた喜びなどを共感する必要がありますので、その目標共有の仕方に関しても工夫が必要であると思われます。

  感覚機能練習と運動学習理論  

 次に重要なのはどうやって関節に対して関節が動いている認識をさせていくかです。

 それは圧覚を利用します。

 圧覚とは皮膚に対してどの程度の押す力が加わっているかを判断する感覚であり、関節運動に伴いその圧覚は皮膚の伸び縮みを判断します。

 そのため、関節の運動に影響を与える深部感覚障害を認めるような場合は、表在覚でもある圧覚を利用した介入を進めます。基本的に重錘などを用いた介入が多いです。重錘をよく失調患者さんに用いているのを見ることがあります。

 しかし、その方法論については二分している可能性があり、重錘を筋力増強として用い、揺れる四肢や体幹などの筋力を鍛えて抑えるために使用しているセラピストと、触圧覚を利用している方法論とがあります。解剖、生理学、神経学において、僕個人の意見になるかもしれませんが、基本的には後者の圧覚を利用した介入での方法論が臨床においても解剖学や生理学、神経学的に一番理にかなっているように考えています。

 その理由は、筋力増強を行ったとしても、脊髄性運動失調では関節の動かしかたがわからない状態であり、筋力増強を繰り返し行うことで逆に変な動きを学習して変な動きを強化してしまうことになります。

 しかし、圧覚的な所見から考えると前述したように当然皮膚からの圧覚の感覚入力があれば、関節がどの方向へ動いているかを認識できるためにこれらの感覚を脊髄性運動失調に関しては有意義な運動療法と言えるでしょう。

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まとめ

脊髄性運動失調は深部感覚の感覚機能障害を認める。

深部感覚は、運動覚や位置覚などの感覚を示しており、これらが障害を受ける脊髄性運動失調では関節が動いていることを理解することが難しい状態になります。

脊髄性運動失調の運動療法は、視覚を用いた代償的な運動療法から行いまず、関節が動いていることを認識して頂きます。また視覚の代償を用いる場合は、ある程度動作の学習を行えた時点で視覚的な代償方法から脱却し、視覚に依存しないように運動療法を行う必要があります。

視覚による脊髄性運動失調の運動療法に加えて重錘を使用した運動療法では、筋力増強のために重錘を利用するわけではなく、重錘の重みによって圧覚の入力を行い、関節運動に伴う運動方向を圧覚によって理解して頂き運動学習を図るために行います。

 

本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

参考文献:失調患者における問題点の予測 後藤 淳 関西理学療法

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