今回は腸腰筋に起きる疾患について解説です。
理由は、腰痛治療が増加する中安易に適当な腰痛治療を受けるとかえって、症状等が増悪する可能性があるため、今回の記事を含め大腰筋や腸骨筋が関与する疾患について解説を行います。
腰痛について
腰痛は、特異的腰痛と非特異的の2種類に分類されています。特異的腰痛とは、原因が明らかであり診断することができる腰痛のことを言い、非特異的腰痛とは、原因の特定や診断ができない腰痛のことを示しています。特異的腰痛と非特異的腰痛人数割合は、図1のように分類されており圧倒的に非特異的腰痛が多い割合となっています。

この非特異的腰痛には様々な関連が考えられています。そこで今回は原因として特に多い大腰筋について解説をします。
この記事でのポイントは、特異的腰痛を知ることで非特異的腰痛の鑑別や治療などを行えるようになる為、大腰筋の機能と大腰筋が関係する特異的腰痛について主として内容の記載をします。
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大腰筋の機能

大腰筋とは図2で示すような位置関係で付着し存在します。図2からもわかるように、大腰筋は腰の骨(腰椎)から足の骨(大腿骨の小転子)まで骨盤を間に挟んで伸びており、腸骨筋は骨盤の内側(腸骨窩)から足の骨(大腿骨の小転子)まで走行しています。
人間の重心位置は仙骨(第2仙骨)部分にあると言われおり、てこの原理でいう支点的役割を果たし体全体の平衡を保ち、安定した姿勢を保っています。
その支点を安定させているのが今回紹介させて頂いている、大小腰筋と腸骨筋を総称した腸腰筋という筋肉が非常に重要な機能を担っています。
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前述した通り大腰筋は体幹(腰椎)と足の骨(大腿骨小転子)とを、骨盤を間に挟みながら走行している筋肉でありさらに、大腰筋などの腸腰筋は一般的に股関節の屈曲運動で働くとされています。しかし、図3で示すように大腰筋はVertebral RegionとTransverse Process Regionの2種類が存在し、一般的には学校の授業などで教えられるのは前者のVertebral Region(Nachemson, 1996)の働きを説明されることが多く、その働きは股関節屈曲や体幹屈曲を動作として説明をされます。


Vertebral RegionとTransverse Process Regionについて図引用:大腰筋の機能 ―Rachel Park 先生の研究より 阿久澤 弘

しかし、後者のTransverse Process Region(Anderson et al.1996, Keagy et al.1966)は逆に体幹伸展として働くことが知られています。このように体幹の屈曲、伸展と共に働きを持つ筋肉が破綻するとどちらかに引っ張られるようになり腰椎そのものの不均衡が生じて腰痛を発するまたは、足の運動や体幹の運動に合わせて協調的に動きながら、全身の平衡を保つように働いているため、これらの筋肉が筋力低下や筋力が支えられる以上の体重や重量物運搬などを行うと筋疲労や組織炎症などを引き起こし、腰痛へと波及していきます。また、安静にすることによっても筋力低下を招き、後に筋力増強などを行う必要があるようになります。しかし、行わずにしていると腰痛が再発する可能性は非常に高くなります。

引用:職場における腰痛と関連疾患の対策
~職場復帰を含めて〜
JFEスチール東日本製鉄所京浜地区
産業医 村 上 太 三
それを示すものとして、図4に示すような結果が現在は研究によって解明されており、必要に応じて運動を行い筋力の増強または維持をしていく必要があります。

図5引用:腰痛のデータ〜腰痛の科学〜
さらに、図4の結果を裏付けるように図5での職業別に見た腰痛の発生率でも無職が一番多い発生率となっています。
では、腸腰筋(大腰筋、小腰筋、腸骨筋)の由来の疾患の紹介とその症状等のについて解説をしていきます。
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疾患紹介
大腰筋と腸骨筋の正常CT画像
まずは、大腰筋の特異的腰痛を鑑別するには、CTの読解は必須です。図6、7で示す画像は正常画像になります。腰椎の左右両側側方に大腰筋、骨盤に腸骨筋を認めます。

図6引用:後腹膜腔の解剖について 腸腰筋膿瘍と腸腰筋血腫の画像

図7引用:後腹膜腔の解剖について 腸腰筋膿瘍と腸腰筋血腫の画像
腸腰筋膿瘍


図8、9引用:腸腰筋膿瘍とは?原因や症状、検査方法やリハビリの方法を紹介!
赤の点線で囲んだ部位が主な所見部位になります。
主な要因
大腰筋や腸骨筋の周囲には脊椎,虫垂,結腸,小腸,腎,尿管,膵などの臓器が存在しています.これら周辺臓器の炎症が腸腰筋に直接波及し膿瘍が形成される場合を続発性腸腰筋膿瘍と言います。.一方,Desandre ARらは炎症が直接波及するような感染巣を周辺に認めない場合を原発性腸腰筋膿瘍とし1)、原発性では潜在的な感染巣から血行性またはリンパ行性に炎症が波及し膿瘍が形成されると考えられています2)。以前には胸腰椎の骨結核に由来する場合が多く見られたが,現在の化学療法の発展により結核性は激減し,現在では高齢者や compromised host(担癌者,糖尿病,ステロイド使用者など)の増加に伴い化膿性腸腰筋膿瘍が増えてきている3)~5)とされています。
主な症状
股関節から下腹部周囲に腫れ上がったような腫瘤のような物を感じる。疼痛と、熱発しているとされています。
診断方法
検査は血液検査と、CTを実施することでわかるとされています。
治療方法
抗菌薬の使用及び重度のであれば、外科的切開排膿、また禁煙では経皮ドレナージを行われるケースも増えてきています。
参考文献
1)Desandre AR, Cottone EK, Evers ML:Iliopsoas abscess : Etiology, diagnosis and treatment. The American Surgeon 1995;61:1087―91.
2)Santaella RO, Fishman EK, Lipsett PA:Primary vs secondary iliopsoas abscess―Presentation, microbiology and treatment. Arch Surg 1995;130:1309―13.
3)山本俊信,山腰雅宏,鈴木幹三,山本俊幸,品川長夫,有我憲仁:高齢者に発症した腸腰筋膿瘍の 1 例.感染症誌 1996;70:371―76.
4)鹿江 寛,池永 稔,奥平修三,富永智大,河井利之,田中千晶:当院で経験した腸腰筋膿瘍の9例.中部整災誌 2008;51:753―54.
5)前田 肇,河合康幸,松本孝王,中井継彦,宮保 進:巨大な腸腰筋膿瘍を合併した糖尿病の 1例.内科 1994;74:197―99.
6)楯 英毅:当院における腸腰筋膿瘍 11 例の臨床的検討(2005―2008).感染症学雑誌 第83巻 第 6 号
腸腰筋膿瘍と腸腰筋血腫
次に、図10は腸腰筋膿瘍と腸腰筋血腫を併発した画像になります。

図10で示すように左右を比較した時点で明らかに大腰筋や腸骨筋付近に異常を認める場合が多いです。
主な要因
外傷(交通事故や転落などによる血管壁障害が生じた場合)、血友病などの血液凝固因子に問題先天性及び内服(ヘパリン、ワーファリンなど)等により問題がある場合に起こりやすいとされています。
主な症状
鼠蹊部、股関節、腰背部の伸展障害(腰をそらす動作)と疼痛、大腿神経麻痺(腸脛靱帯部分の圧痛)が出現します。
診断方法
太もも周囲の疼痛及び筋力と感覚検査、血液検査、CT撮影、超音波検査、貧血症状の確認を行い出血部位があるかなどの確認を行うとともに出血に伴う内圧亢進による疼痛の有無について確認を行います。
治療方法
安静、貧血、ショックに対する治療、凝固異常の補正、抗凝固薬の中断、血管内治療 塞栓術外科的止血を行い筋収縮による出血を抑えながら、重症であれば出血部位を塞ぐ手術を行います。
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まとめ
大腰筋の働きは股関節屈曲運動と体幹伸展運動が機能としてある。
腰痛には特異的腰痛と非特異的腰痛の2種類が存在する。
無職が腰痛の発症率が高い。
大腰筋由来の疾患は、大腰筋膿瘍と大腰筋、腸骨筋を含む出血を起こすことがある。
これらの情報をもとに、臨床で安易に腰痛の訴える患者に対して腰痛治療をきなり行うのではなく、症状について十分に評価を行い、特異的腰痛と非特異的腰痛の鑑別をしっかり行い、治療に進むようにしましょう。