患者様にわかりやすくイラストを用いて解説 人工股関節置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)の手術、リハビリと禁忌肢位

最終更新 2023年1月15日

人工股関節置換術(THA:Total hip Arthroplasty)リハビリと禁忌肢位

 

人工股関節置換術について

図参考:関節が痛い

人工股関節置換術や人工骨頭置換術は、骨折や変形した骨(股関節であれば大腿骨と腸骨)の代わりに、金属を使用し修復を行います。

そして、人工股関節置換術や人工骨頭置換術を行い「病前のように骨と関節が機能し股関節の骨折や変形による痛みや歩き辛さの回復を目指す手術」ことです。

人工股関節置換術の手術件数

人工股関節手術は、年間で約70000件と言われています。

日本人工関節学会による、人工関節特徴の説明において人工膝関節手術は約100,000件、人工股関節手術は70,000件、肩関節手術は約5000件程度と言われています。

また、人工関節の手術は10年前と比較して膝や股関節は1.5から2倍、肩関節は3倍以上に増加していると言われています。

引用:一般社団法人 日本人工関節学会 「人工関節の特徴」

人工股関節置換術の費用

各市町村や加入している保険の種類、所得などによって変化します。

というのも、人工股関節置換術や人工骨頭置換術の費用として約200万円(10割負担)かかるとされています。

しかし、日本の保険制度には高額医療費制度があり、一定自己負担額を超えた時に適応されます。この高額医療費制度は年収によっても変化します。また手続きにおいては保険や市町村によって異なる可能性があります。

人工股関節置換術や人工骨頭置換術を手術を受ける前に、各市町村の保健課などに相談をしておくことで前持って準備しながら手術の計画を考えることができます。

もし、事故や転倒などによって緊急で手術を受ける場合などは病院の事務などで、支払いについて十分に確認を行うようにして下さい。

では、実際に200万円の人工股関節置換術を受けた場合の具体例を説明します。

収入が年収が370万円から770万円の範囲。この高額医療費を適応させてもし200万円の医療費が掛かった場合の人工股関節置換術を受けた場合の最終負担額を計算してみます。

高額療養費制度の適応の収入別概要

※引用:厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ

人工股関節置換術の費用を計算した図

まず、人工股関節置換術の総計200万円を保険適応させ3割負担とします。そうすると60万円が自己負担額になります。自己負担額60万円に対して高額療養費制度を適応します。

すると、80,100円+(2,000,000円-267,000円)×1%=97,430円となります。なので実際に2,000,000円の手術を行なっても97,430円で保険適応と高額療養費制度を用いることで手術を受けることができます。

 

※注意
ただし、先ほども述べたように金銭に関わる内容であり、それぞれが加入されている保険や収入や住んでおられる市町村によって金額が変わる可能性があるので、手術を受けられる場合は事前に確認を行うことを勧めさせて頂きます。また、緊急で受ける場合は病院側にも確認を行うようにしてください。

各保険の概要と問い合わせ先の一覧

一般的な手術時間

2〜3時間程度です

術後管理

感染(金属などを使用していることも含め)、深部静脈血栓症、脱臼等の経過評価を行いながら術後管理を行います。

 

人工骨頭置換術を行う前後の股関節

図引用:知りたい情報BLENDブログ:人工股関節全置換術 (THA)脱臼のメカニズムと予防方法

 

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人工股関節置換術の適応と不適応について

実際に人工股関節置換術を行う疾患や病気は、骨折やリウマチ、変形性股関節症、大腿骨壊死症、臼蓋形成不全などに行われる手術の一つです。

人工股関節置換術を行うことで、骨折やリウマチ、変形性股関節症、大腿骨壊死症、臼蓋形成不全で股関節に生じた問題を解決して、日常生活を取り戻すことを目的とした手術です。

と言っても、股関節疾患の患者様全員に人工股関節置換術を行うことができるかというとそうではありません。

調べたところでは・・・

1:感染症にかかっている、過去に感染症を起こしたことがある

2:骨に人工関節を支えられるだけの強度がない(骨量の現象=重度の骨粗鬆症の場合)

3:関節の神経に損傷がある

4:重度の変形により関節面がひどく不安定である

5:骨の成長や、発達が不十分である

6:骨を構成している組織が著しく欠損している

7:過去にほかの方法で関節を手術し、現状が安定している場合

8:関節リウマチがあり、さらに皮膚病変が活発な状態もしくは、重度な皮膚病変を以前に患ったことがある(感染するリスクが高いため)

参考:人工関節ドットコム

と決められており、全ての患者様に行える訳ではないとされています。

 

大腿骨の骨折患者推移

近年では、平均寿命の延長により高齢者による転倒からの骨折なども増加しており、現在ではこれら人工股関節置換術を受ける患者数は増加傾向にあります。(下図参照)

 

簡単にグラフから大腿骨骨折(頸部、転子部、頸部と転子部)の総数は2012年では12万人を超えている。

これらに合わせて、近年転倒による股関節の骨折が増加していることも踏まえて人工股関節の手術を受ける件数を、(E)(株)矢野経済研究所「2011年版メディカルバイオニクス(人工臓器)市場の中期予測と参入企業の徹底分析」をもとに「人工関節ライフ」が作成した結果として下記図に人工推移を示します。

参考:関節ライフ

このように約10年で2倍程度の人工股関節の手術を行われており、約55800人が年間手術を受けており、今後も高齢者の人数等が増加する限りではこれらの手術件数が増加していくことを予想されています。

人工股関節置換術について

手術の方法

では、この手術方法について一般的に3種類の方法があるのでそちらの解説をしていきます。

図引用:人工関節ドットコム

手術方法としては図で示すように、3方向からメスを入れる方法があります。それぞれにメリット、デメリットがあり主治医の相談を行い方法を決定します。メリットとしては股関節の痛みが軽快することですが、デメリットは脱臼と手術で入れた金具(ステム、カップなど)がずれるまたは脱臼することです。

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術式によるメリットとデメリット

メディカルプラザweb人工関節プラザ:江戸川病院 慶友人工関節センター での解説では

前方アプローチ
カップの設置を得意とし、ステムの設置には不向き、脱臼の可能性は低いが骨折する可能性が他の方法に比べて高い。
側方アプローチ
カップ、ステムの設置はまあまあ有利。脱臼の可能性も少ない。しかし、骨折する可能性が後方アプローチと比較してやや多い。
後方アプローチ

カップの設置は不向きであるが、ステムの設置は得意としている。ただし、脱臼の可能性が高いことがデメリット。しかし、骨折の可能性は他の方法と比べて少ない状態にあります。

このように手術のメリットデメリットは考えられています。


しかし、どの方法においても脱臼が一番危険なことであり、生活上でも起こりうることでありそれぞれの手術方法において生活上で「この姿勢はだめ!」とそれぞれ決められておりそれらを避けて生活していく必要が術後にはあります。

 

術式アプローチ方法別に見た禁忌肢位

・前方アプローチ・側方アプローチでは

 股関節を伸展・外旋 + 複合運動 

 

・後方アプローチでは

 股関節を屈曲・内転・内旋 

そのため、術後はアプローチ方法について主治医や医療スタッフに確認し、脱臼の危険性が高い方向の運動に配慮して生活をしていく必要があります。

 

参考引用

Medical note:人工股関節置換術の術後。脱臼のリスクや注意点とは

人工股関節全(人工骨頭)置換術の脱臼について

 

術後の拘縮について

脱臼以外には・・・

関節の拘縮気をつける必要があります。

関節拘縮とは(赤居によると)

関節の完全可動域が失われた状態と言われています。

またこれらは局所固定臥床安静によって生じるとされているものであります。

これらの範囲は・・・

Videman Tは時間経過とともに関節以外の組織にも拡大していき、耐久性低下などとも結びつくと共に、関節変性の誘因となる可能性もあるとされています。

参考文献

関節拘縮 -その予防・治療について-

Videman T : Connective tissue and ilnmobiliza− tion ;key factorsinmusculoskeletal degeneration ? ClinOrthop 1987 ;221 : 26−32

ようするに・・・

関節が硬くなると、痛みや動かしにくさが出現し、その後今までやっていた作業や活動を行わなくなる

結 ・・・・

活動する、行動する範囲は狭小化し、足などの筋力は低下し耐久性の低下に繋がることが考えられます。

 

この場合の関節拘縮は・・・

手術により筋肉にメスを入れ切ったこともあり、筋肉が伸ばされにくくなった結果と言えるでしょう。例えば、やけどや切り傷をおった跡の皮膚は他の皮膚と比べて硬いように、手術を受けた筋肉も傷がつくとそのように硬くなり伸びにくくなります。

その結果、筋肉を十分に動かし股関節の運動を行えない結果、先ほどからのべる関節拘縮へと発展して行くと考えられるでしょう。

 

 

術後に一番問題視している拘縮

臨床ではよくあるのですが、人工股関節術後に特に後方アプローチを受けた患者様の場合、股関節の外旋運動が拘縮することがあります。外旋制限が出現すると、足の爪を切る動作や浴槽を跨ぐ動作、靴下を履く動作などに支障が初期では出現します。

 そうした動作ができないと・・・ 

それらの動作を行うにも、行えないためやらなくなり結果手術を受けた反対側の足を優先的に使用するようになります。

 

 そして・・・ 

手術を受けた足はリハビリテーション後一向に進歩せず、筋力が低下しひどい場合は手術を受けていない方の足に負担がきて歩けなくなってしまう、または再度反対側の手術を受ける必要性などが出てきます。                                        

後方アプローチの股関節外旋制限について

吉田らは股関節の外旋制限因子として大腿方形筋に焦点をあてて解説をしている。この研究においては実際の献体での研究であり非常に意味のある研究である。

外旋の制限について一番妥当なのは、股関節屈曲では、梨状筋と内閉鎖筋と大腿方形筋が伸張される。股関節外転では、大腿方形筋と外閉鎖筋が伸張される。股関節屈曲・外転からの外旋では大腿方形筋が伸張されると報告されている。

これらの結果から、前述したような動作においては大腿方形筋に焦点をあてて介入を進める必要がある。

現に臨床現場で私自身が大腿方形筋に対してアプローチを行うと股関節外旋の可動域は改善し、座位での胡座にて足の爪切りが可能となるような症例の治療を経験を私はしている。

大腿方形筋の付着部位

 

後方アプローチ外旋制限リハビリテーション

では人工股関節置換術後の関節可動域練習について

僕が実際に行なっている方法で解説をします。

 STEP1 

まず、患者様にベッドの上で仰向けになって頂く。臥床時間が長い患者様は股関節ではなく多少足全体の筋肉が硬くなっていることを想定しまずは膝から股関節にかけての筋肉全体をほぐします。

※注意

ここで重要なのは、適当に揉むことやマッサージをすることではありません。主に筋膜を剥がす(筋膜リリースなど)を使用しさらに、筋硬結の緩和などを行い筋肉を緩めていくことが必要です。でなければ逆効果や意味のない介入になりますので、その方法については個人で勉学に励む必要があります。

 

 STEP2 

次に、ハムストリングスのスタスティックストレッチを実施します。

ここで注意してほしいのがよく目に見る光景ですが、10秒程度の持続的な伸張では筋肉はほぐれませんし、筋肉の粘弾性や伸張性は改善しません。調べるとわかると思いますが、約20秒以上は伸張することが必要です。膝関節伸展として股関節屈曲約50〜60°程度の肢位でハムストリングスを伸張します。

 

 STEP3 

そして、伸張性が十分に得られたと思えば一度寝ている状態で、膝を立てそのまま横に足を倒し寝ている状態でのあぐらのような姿勢を足だけしてみます。その際に、どこに痛みがあるかを評価します。

・内転筋部分であれば、内転筋のスタスティックストレッチとリラクゼーションを行います。

・膝関節の外側部分の痛みであればハムストリングスが十分に伸張されていない可能性と大腿筋膜張筋からくる腸脛靭帯の伸張性低下の可能性が高いです。

・膝関節の外側部分が痛い場合は腸脛靭帯の伸張性低下の可能性が高い場合は、ガーディー結節付近に徒手的に振動を与えること、大腿筋膜張筋に対して徒手的なストレッチを加え改善を図ります。

 

特に上記に該当しない痛みで、股関節・膝関節の外側やが痛いようであれば次に股関節の外旋運動に対して介入を変更します。

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まず、寝ていただいた状態で手術をした側の足の膝を立てます。そして、膝を外に倒すようにしていきます。

そうすると、外旋運動の制限がある場合は膝はベッドにつくことが難しい状況になります。

その状態をキープし治療者がいる場合は膝を痛みの強度を図りつつさらに、開いてきます。

※治療者がいない場合

膝部分に1〜1.5kgのおもりをつけて、外へ倒していきます。ベッドと膝との間が拳半分程度になればそのストレッチは十分です。

 

 STEP5 

そして次は、股関節と膝関節を90°程度に曲げ仰向けで寝いている状態で股関節の外旋動作を徒手的に行いリラクゼーションと併用してスタスティックストレッチを実施します。それを膝を立てて開く際と同様に、我慢できないほどの強烈な痛みではなく我慢できる範囲で複数回実施してきます。

 

これらを2週間程度実施すると股関節の外旋制限はみるみる改善し、ベッド上であぐらをすることができるようになります。

 

その他に圧迫骨折などを患ったことがある場合は、骨盤周りの筋肉をほぐし緩めていくことで効果を得ることができます。

まとめ

 今まで股関節における人工股関節置換術について解説をしてきました。人工股関節置換術には様々な方法があり、それらに伴う禁忌肢位も様々にあります。また、術後に運動できない状態が続くと、今まで可能であった作業や活動に対して急激に体力等が低下する可能性があります。臨床現場ではより一層した禁忌姿位への意識と配慮が必要である。また、人工股関節術の後方アプローチでは外旋制限が強く現れやすい。リハビリテーション方法等を考え立案し実行していくことが必要です

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病院に勤めていた作業療法士が、実際の臨床現場で学んだ脳出血や脳梗塞などに伴う後遺症さらに、骨折や脊髄損傷などの後遺症などの情報を提供。また、基本的な医学用語やトレーニング方法などについての知識をわかりやすく解説。

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