肩峰下インピンジメント症候群とは
1972年にNeerによって提唱されたものであり、鳥口肩峰アーチと肩峰下滑液包・腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋)との間で生じる 衝突現象 であるとした。
1990年にMatesenらは肩峰下インピンジメント症候群の原因を 解剖学的破綻 と 機能的破綻 から捉え後方関節包の拘縮が肩峰下インピンジメント症候群を引き起こすことを示した。
これらかも分かるように肩峰下インピンジメント症候群には関節包や靭帯の伸張性低下や短縮が大きく関わることが推測されますね。
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では関節包っていつ頃から拘縮が進行するの?
関節拘縮においては、皮膚や骨格筋、関節包などの関節周囲軟部組織性と、骨・軟骨といった関節構成そのものに原因がある関節構成性の二通りあります。
①固定期間5日目
・主な制限因子は筋の伸張性低下による筋性拘縮
(短縮位で固定されるほど筋節の減少は大きくなる)
・関節包の生理学的変化を目立って発生しない
※強い炎症反応がある場合は関節性拘縮(癒着)が急激に進行する場合がある
②固定期間10日目
・主な制限因子が筋性拘縮から関節性拘縮に移りかわる
・関節内には結合組織が広がり、関節包を中心に癒着が進行する
・関節軟骨や骨自体の萎縮や摩耗が出現する
・皮下組織における脂肪細胞が減少・消失し線維性結合組織に置換される
・筋性拘縮が固定30日以内は主であり、治療を積極的に行うことで可逆的な拘縮である
③固定期間60日目
・主な制限因子が完全に関節性拘縮へ移行する
・関節内の結合組織の密度が増加する
・関節軟骨が破壊され骨質上で直接的に、結合組織が癒着する
・緻密なコラーゲン繊維が増生し残存する筋繊維の多くが壊死する
・関節性拘縮が主であり不可逆的な拘縮となる
※靭帯については、不動に曝すことで力学的に脆弱になることから、拘縮の責任病巣としての関与は否定的な意見と靭帯も関節拘縮に関与していると報告するものがある。
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ではなぜ脳卒中でインピンジメントが起こるの?
肩には静的安定化機構と動的安定化機構のより安定性が担保されています。要するにこれらにより、肩関節は上腕骨の受け皿が他の関節と比べて浅いにも関わらず安定し強固に連結しています。
・静的安定化機構
各関節包、関節上腕靭帯、関節唇など
・動的安定化機構
腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)、上腕二頭筋腱
なかでもこれらの最終可動域においては、最終的に動的安定化機構の筋ではなく、静的安定化機構の関節包や関節上腕靭帯が緊張することで求心力を高めつつ関節を安定化させています。
しかし、麻痺や外傷等による不動や固定により長期間同一肢位になると最終可動域手前でこれらが過度に緊張する為、体は無意識に骨頭を固定されている方向とは反対側へ偏位させる力が強く働きます。その理論としては「obligate translation」と言われるものです。
obligate translationとは
①上記の図のように、外転位が続くと初めは下方関節包は伸張されます。
②その状態が続くことによって下方関節包は縮もうと働きます。
結果
関節包が縮もうとし、行き場を失った上腕骨頭は斜め上方へ引き上げられるように偏位し鳥口肩峰アーチの狭小化を招きます。
①上記の図のように外旋位で固定を行うと、前方関節包は初め伸張されます。
②しかし、この状態が続くと前方関節包は伸張されているので縮もうと上腕骨頭をわずかに動かし関節包を縮めます。
結果
図の青矢印で示すように骨頭をわずかに後方偏位させるように動きます。そして、烏口肩峰アーチの後方部分を狭小化させます。
①上記の図のように内旋位で固定を行うと、後方関節包は初め伸張されます。
②しかし、この状態が続くと後方関節包は伸張されているので縮もうと上腕骨頭をわずかに動かし関節包を縮めます。
結果
図の青矢印で示すように骨頭をわずかに前方偏位させるように動きます。そして、烏口肩峰アーチの前方部分を狭小化させます。
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Case1)ここで関節包による拘縮について、脳卒中患者例をあげて解説をします。
症例状況
脳卒中により左腕に麻痺が生じ、上肢管理の為に腕をお腹にのせるようにして寝る。また、離床中は三角巾で固定をする。
症例症状
入院時などには肩の痛みを訴えることがなかったが、徐々に肩を入院時と同じように運動しても痛みの訴えが強くなり、礫音が運動時に生じる。
ではこの症状についてインピンジメント症候群のNeerテスト、Hawkinsテストが陽性となりました。
なぜ?
これには先に説明した「反対側へ偏位させる力が強く働きます(obligate translation)」が肩関節については関与している可能性があるのです。
通常上記のようなポジションを取ると肩関節は下垂位、内転約0°、内旋約80°で固定となりますよね?
このポジションでobligate translationの考えを適応させると・・・・・
・最終可動域に達し、伸張されるのは関節包上方、後方と鳥口上腕靭帯、上関節上腕靭帯、後下関節上腕靭帯が伸張されます。しかし同時にobligate translationの考えだと最終可動域に達しているために縮もうという働きが上記の関節包や靭帯に対して働きます。その結果時間の経過と共に関節包上方と後方の伸張性が低下します。それにより肩関節の屈曲時に骨頭の前方偏位が生じ、肩峰下接触圧が高まり、インピンジメント症候群を引き起こすことになるのです。
ではどうすればいい?
①ポジショニングを時間帯や日によって変更する。
よく病院であるのが重度な麻痺の場合、体の下に腕を敷いた状態で寝てしまい疼痛の発生、ひどい場合脱臼する危険性があり三角巾やスリングを使用し固定をします。ただし、ある数時間であれば問題ないと思われますが急性期(救急車で運ばれた病院)などで、絶対安静をしいられ前述の固定をすると先に説明した通り10日も経過すると関節包に結合組織が増え、上腕骨と癒着しobligate translationで説明した現象を引き起こし拘縮や運動時の痛みの要因となります。そのため、適宜肩のポジショニングを内旋、中間位、軽度外転、内転など様々な方向でポジショニングを変更させることが有効かと思われます。
②関節可動域練習を行う。
ポジショニングによるobligate translation現象を的確に捉え、リハ時に拘縮すると考えられる関節包に対して痛みの出ない範囲でROMを実施する。また、痛みによる炎症反応の引き出しはかえって結合組織などの増殖に関与し逆効果となるため、基本的には愛護的に行うことが望ましいかと思われます。ただし、剥離を目的とした関節可動域練習では当然痛みを伴うため、除痛を行いながら介入することが有用かと思います。
※やも終えず可動に伴い痛みを発する場合は痛みの要因分析を行い適度に除痛を行いながら介入を進める。